SS

□not still
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知ったのは偶数。
したのは勢い…?



「おまえさん、今日はえらい荷物が多いのぅ」
右肩にはテニスバッグ、左手にはやや大きめの紙袋を持って柳生は部室にやって来た。

「女子の方々に頂いてしまいました」
困ったように笑うと荷物をロッカーにしまう。

「モテモテじゃのう」
「今日ワタシの誕生日なので、気を遣って下さったみたいです」
「…へぇ、誕生日なんか」
どうりで。

さっきちらりと見えた紙袋の中身がカラフルな包装を施されていた理由に納得した。


「…今飴くらいしかもっとらんわ」
せっかくだから何かやろうかとも思ったが、自分にとって今日は普段と同じ日。
普段と同じなので鞄の中には飴かガムかミンティアか―簡単に言えば人にやるほどの物が入っていない。


「いぇ、気持ちだけで結構ですよ」
「え〜、なんかオレの気がすまん…」
何かないかと鞄を漁るがやっぱりろくなものは入っていない。

あ、真田に持たされた紙くしゃくしゃになっとる…まぁいいか。

そんなオレの様子がおかしいのか柳生はくすくす笑って見つめている。


―へぇ。そんな風に笑うんか。

普段のカタいイメージと違って、笑うと可愛らしい。

……いや、男に可愛いとかどうよオレ?



けど、なぜか目が惹かれる。



だから、なのか。

「オタンジョウビオメデトウ」
色の薄い唇に口づけた。


「はっ!?」
事態が飲み込めないのか呆然としている柳生の唇を舌で触ってやった。

その反応が面白くて面白くて。

部活中笑いを堪えるのに苦労した。
当然その後正気に戻った柳生に猛然と怒られたが。

さっきとのギャップでそれすらも面白くて。
新しいオモチャを見つけた気分になった。





多分それが始まり。


まだ「キモチ」にすら気付いていない日。





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