STORY(赤也不二)
□だいすき
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「ちょっと、幸村部長どういうことっすか?!」
息を切らし汗だくになった赤也が店内で部活の先輩と待ち合わせの相手を見つけ、不機嫌丸出しの顔で飛んで来た。
赤也の携帯に《不二を拉致した。スタバで待ってる。早く来ないと不二を貰っちゃうよ。》とメールが来たのだ。
「どういうって、こういうことだよ。あんな場所で不二を待たせていたら熱射病で倒れてしまうからね。」
「…そんなに待たせた…?」
しょ気る赤也を楽しそうにしかし愛おしそうに見つめる幸村に、真田と柳はまた悪い癖が始まったのかと、気付かれないようにため息をついた。
(赤也が可愛いからと苛めて喜ぶのは…)
しゅんとしてしまった赤也に慌てて不二は声をかけた。
「違うよ。全然待ってなんかないよ。チケット買っておこうと思って少し早めに来ただけだから。」
「そうなんですか!」
不二の心遣いと、もしかしたら映画に誘ったことは迷惑だったかもと不安に思っていたことが杞憂だったと分かり嬉しかった。
「それに、コートはもっと暑いよ。日陰なんかないしね。そこでテニスをしているんだよ、ちょっとやそっとじゃ倒れたりしないよ。」
「ですよね。」
不二の身体に負担をかけていないと分かると、赤也はホッと胸を撫で下ろした。
「でも赤也、男3名女2名だったな。あそこに立たせたままっだったらもっと増えた確率100%だな。」
「…そんなに…」
柳が言った数は、不二を見かけてからコーヒースタンドに入るまでの数分の間に不二に声を掛けてきた人数だ。
幸村達と一緒になってからもグループで声を掛けてきた者達もいる。
何の事だか分かっていないのは当の本人の不二だけだ。
「俺達は不二を守ってあげていたんだよ。」
にこにこと幸村は不二の肩に腕を回す。
(また赤也を挑発して…)
立夏2と3は頭を抱えた。
「楽しい話も色々したしね、不二。」
「うっうん。切原くんの話が主だったけどね。」
不二も笑顔で面白い話だったと頷いた。
「俺のっすか?!」
「そうだよ。赤也が入学したばかりの頃、俺たちに負けて泣いたこととか…」
「泣いたこととか…?」
「テストで全部赤点だったとか…」
「全部赤点だったとか…?…!全部じゃないですよ!」
「女の子に告られたこととか…」
「そんなこと話さなくてもいいじゃん!行きますよ不二さん!こんなとこに居たら、何言われるか分かったもんじゃない…」
肩に回された幸村の腕を振り払い、不二の手を掴んで引っ張って行く。
その後ろ姿を見送りながら
「赤也頑張れ!」
と声をかける。
不二に見られないように、赤也は幸村達にベーッとすると人混みに消えて行った。
フロアの隅のスタッフしか通らないような通路へ不二を引っ張って行く。
「不二さん!」
「何?」
「そんなに声かけられたんすか?」
「道を聞かれたり、お店聞かれたりしたけど…」
「したんですね!しかも、男からも!」
「男同士で声かけやすかったんじゃないかな。」
「本当にそう思っているんですか?!」
「そうじゃないの。」
それだけの事だったら幸村達が不二に声をかけたりしない。
明らかにナンパだったんだろう。
この天然で人のいい不二なら、分からないから一緒に来てくれと言われたら行ってしまうだろう。女の子であれば力で負けることはないだろう、しかし相手が男だったら…
「もう、心配ですよぉ…」
赤也は不二の両腕を掴み、肩に額を乗せた。
「何?ああ、幸村の話し?大丈夫だよ、本当はあんな話してないから。君がいつも一生懸命にテニスと向き合ってるって話だったんだよ。」
赤也が何を心配しているのか全く分かっていない、そんなことも愛おしくて不二をそっと抱き寄せた。
背丈は同じ位だが、自分よりずっと細い体。
「すき…」
少し長めのサラサラの髪に顔を埋めると、汗ばんだ身体から甘酸っぱい香りがする。
「大好き…」
甘く擽るように囁いた。