STORY(未来編)
□背負うもの
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卒業から2年経ち、成人式を記念に青学元テニス部レギュラーは河村寿司に集まる事になった。
「みんな、久しぶり。今日は俺が腕を振るうよ。」
「タカさんが握ってくれるの。それは嬉しいよ。」
「うんうん。もう、お客さんにも出してるのかにゃ。」
「少しづつだけどね。親父の腕にはまだまだ及ばないけどね。」
「タカさん、覚えてる?僕に最初に握ってくれるのって、わさび寿司だよ。」
「勿論、特製バーニングわさび寿司を用意してるよ。」
「クスッ、ありがとう。」
「ところで、手塚は今日来られるのかい?」
「僕は何も聞いてないけど、大石何か知ってる?」
「いや、忙しいんだろう。時間と場所は伝えてあるから、都合がつけば来るだろう。」
菊丸が、そっと不二の袖を引っ張った。
「ねえ、不二と手塚は連絡とか取り合ってないの?」
「うーん。卒業して1年くらいはメールの遣り取りや電話で話したりしていたんだけど、プロになってからこの1年はほとんど話してないなかも。メールも僕が一方的に送っている状態だしね。」
「それで、淋しくないの。」
「毎日でも会いたい。毎日話もしたい。僕って我侭だからそれが本音だよ。でも、手塚はプロになったばかりで、ランキングも上げなきゃいけないし、遠征もあるでしょう。我侭言っちゃいけないなって思うんだ。」
「内助の功ってやつ。」
「クスッ、ちょっと違うような気がする。」
未成年もいるが、ビールくらいならとお酒も進み、久しぶりの再開に話に花が咲く。他のお客さんの相手をしていたが手があいたので、河村がカウンターの中からみんなに声をかけた。
「みんな、大学はどう?」
「うん、楽しいよ。栄養について学んでいるんだけど、今なら乾がドリンクの話をしてもついていけるかもって感じ。英二とも同じ大学だから時々会うしね。」
「そうそう。昼も一緒に摂ったりしてるよ。俺、体育科だから運動ばっかしてればいいと思ってたのに、教職取るならって、勉強もしなきゃいけないんだよ。」
「当たり前だってば。乾はどう。」
「法律って、もっと堅いもんだとおもっていたが、パズルみたいなもんだな。導きたい結果に、どの条文を引用するか探してきて後は理屈をつける。なかなか興味深いもんだよ。」
「ふーん、そんなもんなのかにゃ。俺にはちんぷんかんぷんだけどね。不二はどう?」
「僕?僕は今、新聞社でバイトしてるんだ。教授に将来記者になりたいって話をしたら紹介してくれて、何より手塚とチームメイトだったってわかったら即採用だったよ。手塚ってすごいよね。」
そのときだった。店の戸が開き、手塚が入って来た。
「遅くなってすまなかった。」
「手塚!」
「待ってたよ。さあ、入って。」
(本当に、手塚だ…鋭さが増したような気もするけど変ってないあの漆黒の瞳、短めになったかな少し堅い髪、身体も大きくなったかな、肩幅がひろくなったようだね。会いたかった。何から話そう。たくさんあって迷っちゃうよ)
不二は胸いっぱいに広がる思いを噛締めていた。が、心凍らせる一言が手塚の口から発せられた。
「すまない、今日はゆっくりしていられないんだ。ただみんなに報告しておこうと思ってな。」
手塚の背後から見知らぬ女性が姿を現した。
「彼女と結婚する事になった。」