STORY(未来編)

□再会
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僕は青学の大学には進まず、外語大学に進んだ。ドイツ語を学ぶために。此処にいればドイツの新聞や雑誌を手にするのは簡単だったし、それを自分の力で読みたかったから。

そして僕は英語の教員免許を取得し、教師として青学の中等部に戻って来た。

キミと出会った場所だから…
キミと過ごした場所だから…
キミの真剣な眼差し、怒鳴った声、分かりにくいけどほほ笑んだ顔…
あちらこちらにキミの面影が浮かぶ…

でも、思い出に浸るにはまだ切なくて、テニス部の顧問をという依頼を断り僕はESSの顧問になった。

ここには、汗も涙もない。
勝負への執着もない。
でもね、同じ中学生だよね。
発音が上手く出来たと喜び、単語を覚えたと自慢する。
エースを取ったと喜び、技を覚えたと歓喜していた僕たち。
みんな同じ中学生。
何かに一生懸命になっている生徒達が可愛い。
僕は、いい先生になりたい。
みんなが、楽しく思い出深い学生生活を送れるよう手助けが出来たらいいと思うよ。
僕はそんな穏やかで優しい時間を過ごしていた。



教師になって3年目を迎えようとしていた4月。
竜崎先生の推薦ということもあり、学園を去られた先生の後任としてテニス部顧問にと声が掛かった。(竜崎先生は数年前に退職されていた)

「不二よ、そろそろラケットを握ってもよかろう。」

竜崎先生にそう言われると、僕に断れるはずはなく引き受けることになった。
久し振りに握るラケット。
蘇る懐かしく切ない思い出。
先生は分かっていたに違いない。聡く鋭い先生だから、僕がテニスを止めた理由も青学に戻って来た理由も。
もう、過去を引きずるのは止めろと言いたいんですよね。

「引き受けたからには、することはしないとね。」



新学期の始まり、今年度初の部活動はミーティングを開いた。

「今年から男子テニス部の顧問となった不二です。3年生は英語の授業で会っていたけど、2年生は初めましての人も多いかな。やるからには全国目指して行きたいと思う。ビシビシしごくけどよろしく。」

僕の『全国』発言にざわつく。今の青学は、地区大会で勝つことすら難しい程弱体化していたのだ。竜崎先生が退職された後顧問となった先生がいい加減の上、校長にいい顔をしたくて自分1人で大丈夫だと校外コーチを招くことを拒んだ結果だった。

(僕たちがやっていた練習をさせるにはまだ、無理だよね…)

取り敢えず体力と心肺の強化のためグランド10周と、コントロールをつけるためのコーン当てを練習に加えた。
これだけでもブーブー言っている子ども達の様子から、僕は明日から練習を始めるので今日は帰って明日からのために鋭気を養う様に告げ解散した。
部長には残ってもらい、今までの様子を聞いてみた。想像以上の内容に僕はため息をついた。
全国なんて夢のまた夢のまた夢だ…

初めは僕の言う様に練習メニューをこなしていたが、厳しさに慣れていない子どもたちだ、次第にだらけ手を抜くようになっていった。

「不二なんて、甘い甘い!」

「口だけでさ、どうせ面倒くさいと思ってるんだよ。直ぐに前の顧問見たいになるさ!」

そんなやり取りを耳にする。
どうやら僕は大人しく、生徒を叱れない教師だと思われているようだ。
何より、運痴(と思われているようだ)の僕に指導されるのが嫌なのだろう。
きっと、僕にスポーツは出来ないだろうと思っているに違いない。教師になってからの僕は、人前で運動なんてした事もないし、見た目もスポーツマンには見えないだろうしね。

確かに熱血先生には程遠いけど、感情を露わにすることも殆どないけど、部員の認識は変えなければいけないな。

ある日のことだった。

「先生さあ、俺たちばかり走らせてないでさ、自分も走って見せてよ!」

にやにやと、1人の生徒が僕に話し掛けてきた。

(今だ!)

僕は心の中で叫んだ。
生徒たちの、僕への認識を変えるのは!
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