STORY(跡不)
□優しい君だから
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「手塚が…九州へ行くことになったんだ。そこで青学系列の病院で治療を行うんだ。スポーツ医学もリハビリ施設も整っていて、とてもいい環境なんだ。」
「ふーん、そりゃ良かったな。」
不二の目を見ず答えた。
「手塚はとても強い精神力を持っている。だからきっと肩を直して戻って来るよ。」
「…」
「あれは試合だったんだ。正々堂々とした一流プレーや同士の試合だったんだ…試合にアクシデントはつきものだよ…」
「…」
跡部は不二が何を言いたいのか分からなかった。てっきり、手塚が肩を壊すきっかけを作った自分を責めるものと思っていたからだ。逆にそれが跡部をいらつかせた。
「手塚は精一杯プレーしたんだ。晴れ晴れしてるよ。」
「…」
「誰も恨んでいない。」
「クッ…」
「自分の管理不足だと言っていたよ。だから君が気に病むことはないよ。」
「クソ!いったい何を言いに来たんだ!俺の所為だと、俺が手塚の肩を壊したんだと責めろ!」
跡部は興奮しテーブルの上に運ばれてきたティーカップを叩きつけた。
毛足の長い肌触りのよさそうな絨毯にみるみる茶色の染みが広がる。
砕け散ったティーカップの破片を見つめながら不二は言った。
「そうやってずっと自分を責めていたんだよね。君のことだから強がって何でもない振りをしていたんだろうけど、気になっていたんだよね。君は優しいから。」
幼いころから自分の身の回りの世話をしてくれている爺やにしか言われたことのない言葉。
「俺様が優しいだと!」
「そうだよ。」
「フッ、俺様のことなんか何も知らない癖に。」
「そうだね、知らないことはたくさんあると思うよ。でも、君が優しいことは分かるよ。あっ、あと淋しがりな事もね。」
ティーカップの破片を拾い上げ、ふふと笑いながら跡部を見つめた。
「何だと…」
「だって…ずっと君を見ていたから…」
不二は跡部から目を逸らさず真剣な眼差しで見つめていた。
「君は優しいよ…ただ表現が下手なだけ…だから、手塚のことを気にして自分を責めているかもしれないと思ったら、君の所為じゃないと伝えたかった!誰もそんな風には思っていないと伝えたかった!だから、君は君のテニスをして欲しいって…伝えたかったんだ…差し出がましい事をしたかな…ごめん…」
小さく見える不二の肩を跡部は抱き寄せた。何故だか自分でも分からなっかったが、そうしなければならないような気がしたのだ。不二の涙は見たくない。いつも笑っていて欲しいと思った。
「大きな声を出して済まねえな。お前の気持ちは嬉しいよ。ありがとうな。」
「跡部…」
「見てろよ、今度は青学が足元にも及ばねえとこ見せつけてやるからな。」
「…ふふ…それはどうかな?」
涙に潤んでいる瞳が綺麗だ…
自分に向けてくれる笑顔が可愛い…
自分を慮ってくれる心が愛おしい…
不二が訪ねて来たと聞いて心が弾んだ意味が分かった…
自分もずっと不二を見つめていた…
プレーに魅かれていたと思い込んでいたが、実は不二自身に魅かれていたのだと…
「俺もお前を見ていた…お前の笑顔を見ると俺も笑顔になった。お前が苦しそうだと代わってやりたかった。その意味が今分かった。」
不二の肩を抱く腕に力が入る。
「お前が好きだ。誰にも渡さねえ。」
「…跡部…」
「見てろよ、誰よりも強くなってやるからな。」
「それは困るかも…」
悪戯っぽく笑う不二にそっと口づける。
「俺様しか見えないようにしてやるよ。」