STORY(パラレル)
□僕のテニス
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「久し振りにちょっと打ち合わねえか?」
「俺は…」
「少しくらいなら大丈夫だろう?そこの可愛い生徒さんだって、手塚のプレー見てみたいよな?」
「コーチのプレー…」
手塚は部員達に練習メニューを指示し、それを見ながらアドバイスをくれたり、軽い打ち合いならしてくれたが本気のプレーは見せたことがなかった。
「はい。見てみたいです。」
「だとよ。どうする手塚?」
まるで、新しいゲームを手にし早くそれをやってみたい子どものように、跡部の表情は期待に溢れていた。
手塚は暫く跡部の顔を凝視し、軽く不二を振り返った。当たり前のように不二は手塚に頷いて見せた。
「わかった。お前のような世界トップクラスのプレーヤーとどこまでできるか分からないがやってみよう。」
「ふん、何言ってやがる。」
「…?」
不二はすぐに跡部の言葉の意味を知ることとなった。
「す…凄い!」
不二は拳を握りしめその掌が汗ばんでいた。其れほどまでに2人のプレーに夢中になっていた。
力と力、技と技のぶつかり合い。どちらも引かない。手塚がこれ程のプレーヤーだったとは。
「跡部さんが加減しているってことは…ないよな…」
いつの間にか部員たちが2人が打ち合っているコートを取り囲んでいる。
跡部が手加減などしていないことは、表情を見れば分かる。
「手塚コーチって、凄いプレヤーだったんだな…」
「こんな試合を近くで見れるなんて、青学でよかった…」
部員たちが無意識に口々にする率直な感想を不二は聞いていた。
(きっと、これからはみんな手塚コーチを認め素直について行くだろうな…これでまとまれば青学は強くなる!)
手塚のリターンが跡部の足元に決まった。歓声が湧きあがる。誰もがボールを追っていた。が、不二は見てしまった。手塚の顔が歪んだのを。
(あの表情って、痛み…?どうしたの?…えっ?)
その時、不二の思考を遮断するかのように跡部の声が響いた。
「よーし!いいだろう。どうだお前らのコーチは?学生時代、俺様のライバルだったんだ腕は鈍っちゃいないようだな!」
ースゲー!
ー跡部選手とライバルだって!
手塚を囲み歓声と拍手が湧きあがる。
誰もが手塚に憧れ信頼することだろう。
(まさか…)
不二は1人跡部の後を追った。
「跡部さん!」
「おう!手塚の1番弟子か、何か用か?」
「あの、1つ聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「跡部さんはこうなること…部員が手塚コーチを認め慕ってくるだろうって分かっていて試合を…手塚コーチに本気のプレーをさせたんですか?」
「ん、なかなか鋭いな。手塚のプレーは観る者を引きつける。対戦相手でさえ惚れ惚れするプレーだった…中坊が圧倒されるのは当たり前だろう。あいつは、プレーヤーとしても指導者としても超一流になれる才能は持ってんだが、コミュニケーションという才能はねえからな。」
「やはりそうだったんですね。手塚コーチが指導し易いようにって…手塚コーチがライバルだったって言うのは本当なんですね。」
「質問は1つだったんじゃねえか?」
「それと、最後にちらりと見せたコーチの表情は苦痛に満ちていたように思います。どこか悪いのですか?」
「質問は一つだろう。でもな、よく気付いたな。え…」
「不二です。不二周助と言います。」
「不二か。」
「はい。」
「なかなか聡いお前にご褒美をやろう。」
「…?」
「お前、手塚にプレースタイル変えろって言われてただろう。その通りにしてみな。お前に合っている。俺様のプレーを真似するなんて小さいこと止めときな。」
「あっ!」
「俺様と対戦するまでにお前のプレーを作り上げときな。」
「はい!ありがとうございます。」
憧れ続けていた跡部と間近で合うことが出来たことより、会話が出来たことより、跡部の対戦相手と見てもらえたことが嬉しかった。いつか対戦した時、恥ずかしくないプレーをしたいと思った。
跡部がこれ程までに認める手塚にしっかりついて行こうと誓った。