STORY(パラレル)
□僕のテニス
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不二の思っていた通り、翌日からの部活動は今迄の和気あいあいとした空気を一変し、ピリッと張りつめていた。
そんな練習が、数日続いた。
大声で怒鳴るわけでも、暴力を振るうわけでもないが、手塚の眼差に部員達は萎縮してしまうのだ。
「…テニス、楽しくやりたいのにな…」
「おい、お前。」
「は、はい。」
つい愚痴ってしまったのが聞こえたのかと思い肩に力が入ってしまう。
「名前は?」
「不二です。不二周助。」
「不二か。不二は誰かについて教えてもらったことがあるのか?」
「特には…イギリスに居た頃にスクールに通っていましたが、個人ということならありません。」
「そのプレースタイルは独自か?」
「スタイルということは考えたことはありませんが、憧れのプレーヤーの真似かもしれません。」
「ふーむ。見よう見真似ということか。俺がボールを出すから言う通りの球種で返してみろ。」
「はい。」
(何だろう…?取り敢えず言う通りにしておこう)
不二は言われた通りの球種で打ち返す。時には打つ寸前に球種を変えられたりもした。戸惑いながらも、きちんとそれも丁寧にコーナーを狙って返した。息が上がる。不二の肩が大きく上下する。
「よし、いいだろう。」
「ありがとうございました。ハアァ…ハアァ…」
「やはりな。」
「…?」
「お前にはこちらが合っている。」
「…?」
「今迄、どちらかと言えば力で相手をねじ伏せるテニスに近かったろう。おまえの体躯とパワーではこれ以上は無理だろう。見ろ、先日の体力テストの結果だ。かなりの身体能力を持っているが、持久力と筋力は平均よりやや上くらいだ。スポーツ選手としてなら並だ。」
「…クッ!」
分かっていた。分かっていて自分でも気にしていたことをはっきりと指摘され悔しかった。体も大きく筋肉が付くよう、食事にも気をつけた。体力をつけたくて走り込みやジムにも通った。しかし、筋肉が付きにくい体質なのか、一向に大きくならない。成長期ということを考慮しても、不二の体は小柄のままだった。
(テニスをやめろと言うのか…)
悔しくて、情けなくて涙が滲む。
「しかし、お前は柔軟性には富んでいるな。今も見せてもらったが、手首も柔らかい。お前、カウンター重視のプレーをしないか?」
「えっ?」
予期もせぬ言葉に驚き、思わず顔を上げ手塚を見上げた。
冷たいと思っていた瞳は、強さだった。テニスに一途な男の瞳。不二は、自分が思い違いをしていたことに気付いた。
彼は、人に対して厳しいのではなく、テニスに対する思いに厳しいのだ。目指すからには、己の手にしっかり掴めと。
「はい、コーチについて行きます。」
不二は無意識にそう言葉にしていた。
「よう。少年に慕われてるな、コーチさんよ。」
背後から不意に聞こえた声。この声は…
不二はゆっくり振り返った。
「跡部選手…」
3年前、不二を魅了したあの選手が立っていた。