STORY(パラレル)
□夢を追い続けて
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言葉通り不二は翌日入部届けを出し、マネージャーとしてテニス部の一員になった。
マネージャと言っても走ったり等の心臓に負担のかかる事は1年の新入部員に任せ、日誌や各自の記録を録ってもらうことにした。
頭の回転が速いと竜崎が言っていたが、その言葉に間違いはなく記録を録るだけでなく、欠点やその克服法等細かいことまで書かれていた。それをもとに練習方法を考えられるので手塚にはとてもありがたかった。
また、3年生は5人と少なく、全国制覇を目指し練習に励んでいる手塚達の代わりに1年生の基礎練習を見てもらえることも助かっていた。
ある日、練習試合の為2・3年が不在となった。
コートが全面空くことなどそうあることではないので、不二に見ていてもらい1年生に使わせることにした。
先輩も居ない、コートも思いっきり使えるのだから1年生達が興奮しはしゃぐのも仕方のないことだ。
球出しを交代にさせ、フォアとバックを交互に打たせていた。
今まで素振りをしっかりとまた丁寧にさせていた為か、皆綺麗に打ち返している。
「うん、皆いいね。少し休憩しようか。」
笑顔で声をかけると1人が近づいてきた。
「不二先輩はテニスやらないんですか?」
「んっ、僕?そうだね、やったことはないしマネージャーとして入部したからね。それも3年になってからね。」
「先輩の教え方って分かりやすくて、僕みたいな初心者でもきちんと打ち返せるようになったし、きっと先輩も出来ると思いますよ。僕、球出ししますから少し打ってみませんか?」
と、自分のラケットを不二に差し出した。
思わず受け取ってしまったラケットを見つめた。初めて握りしめるラケット。家ではやりたくなるからとスポーツ用品は触らせてもらえなかった。
(僕にも出来るかな…少しくらいなら大丈夫かも…うん、ここのところ調子がいいしやってみようかな…)
「じゃあ、少しだけお願いできる?」
「もちろんです。」
初めて立つコート。
こんなに広いんだ…
外で見ているのとは全く違うコートの中は自分だけ、頼りになるのは自分の力だけ…
「先輩、行きますよ!」
ボールが弧を描きネットを越えて来る。
不二はいつも1年に教えているようにラケットを構えた。
初めて振るラケット。
身体を捻りボールを打ち返す。
スィートスポットに当たりボールは勢いよく相手コートに帰って行った。
(気持ちいい!)
不二は手にしたラケットを見つめた。
たった1球だけど凄く気持ちいい。
テニスって楽しい。
全然苦しくないしもう少し出来るかな…
「不二先輩、次行きますよ!」
「うん、お願い。」
不二は待っているところに来るボールを打ち返すだけでは物足りなくなってきた。
「悪いんだけど少し散らしてもらってもいいかな?」
不二の心臓が悪いことなど知らない1年生は、コートのあちらこちらにボールを散らしてくる。
運動はしたことはないとはいえ、不二が持って生まれた運動能力は高く、大抵のボールには追いついてしまう。
(こんなに走ったのって初めてかも…)
(スポーツって、やっぱり楽しいや)
その楽しさ故不二は忘れていた、自分の心臓のことを…
左のコーナーにボールが飛んで来た。
バックにラケットを構えながらボールを追おうとした時だった。
ドクッ
鷲掴みにされたかのように心臓が苦しい。
息ができない。
顔が歪む。
急に蹲ってしまった不二に1年生が集まって来る。
「大丈夫ですか!!」
「誰か保健の先生連れて来い!!」
不二の尋常ではない苦しみ方に皆パニック状態に陥っていた。
「んっ…何かテニスコートが騒がしいな。何かあったのかな。」
早く試合が終わり、2・3年が帰って来たのだった。
今日の試合の反省を兼ねて軽く部活動をしようとした彼らを迎えたのは、真っ青な顔をし右往左往している1年生達だった。
「おーい。どうかしたのかぁ?」
副部長の大石が代表して声をかけた。
「あっ!大石先輩!あの…不二先輩が!…」
不二の名を聞き、手塚と大石はすぐに駈け出した。
不二の病気が直ぐに浮かんだのだ。
1年を掻き分けるとそこには血の気なく苦しさに顔を歪め横たわる不二がいた。