STORY
□思いを風に
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僕はなるべく手塚と距離をおくようにした。二人の姿を見ぬように、二人の会話を聞かぬように…
「ねえ、英二。柔軟一緒にやろう。」
「そうだ、タカさん。サーブ練習したいんだけど、レシーブしてくれる?」
「乾、乾汁のこと聞きたいんだ。一緒に帰ろう。」
あからさまに手塚を避ける僕を、不審そうに見つめる手塚。でも、声をかけてはこない…
「越前、サーブ練習だ。第一コートに入れ。不二は河村と組むんだったな。」
なんで、誘ってくれないの…同じ練習メニューなら、たまには僕の相手をしてくれてもいいんじゃない…ダメ!こんなところで泣いたら、みんな見てる。
雫が一滴、二滴落ちる…
「手塚、汗かいちゃった。顔を洗ってきてもいいかな?」
「ああ、早く戻れ。」
「わかった。」
わかるわけない…落ちたのは汗じゃない…顔を洗うと僕は木の陰に座った。木の幹にもたれ、空を見上げる…泣くな、全国制覇の為、僕たちの目標達成のためじゃないか。タオルを顔にかけ風を感じる。いい気持ち。頬をそっと撫ぜていく風に混じってリアルに感じた指先…
(手塚…!)
「何サボってんだ、不二。」
「乾…なんだ君か。」
「手塚かと思ったか。」
「…!」
「不二の気持ちなんてお見通しだよ。プレーに関しては全然データーを取らせてもらえないが、お前の手塚に対する気持ちは100%の確立で分かるぞ。」
「僕って分かりやすい?」
「ほかの奴等にはどうか分からんがな。」
「じゃあ、今の僕はどう?」
「手塚に相手にされず拗ねているうえ越前に嫉妬している。だが、お前の性格では、無理に仕方がないと納得させようとしているといったとこかな。」
「かなわないな、乾。大正解だよ。」
「予言もできるのだが。聞きたくないか。」
「何?」
「淋しい周助くんは、優しい乾くんに惹かれていく。どうだ。」
「何それ。あはははは。」
「やっと笑ったな。」
「ありがとう、乾。元気が出てきたよ。」
「それは何よりだ。行くぞ。」
乾は、クシャっと僕の頭を撫ぜた。暖かく大きな手だった。