STORY
□思いを風に
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越前はランキング戦で勝利し、見事1年でレギュラーの座を獲得した。僕は見たんだ、越前勝利の瞬間、手塚の瞳が輝いたのを。有望な後輩を喜ばなきゃいけないのに、僕は越前のレギュラー落ちを望んでしまった…手塚の関心が向かないようにと…。
その日から、手塚は越前に掛かりきりになった。
「越前、アップはいいな。乱打行くぞ。」
「ウィッス。」
「越前、ランニングだ。今日はグラウンド10週でいいな。」
「チーッス。」
見たくないのに、二人の姿を追ってしまう…。
僕はどうしても手塚と二人で話がしたくて、昼休み生徒会室を訪ねてみた。ドアを開けると正面に君は座っていた。窓越しに昼の暖かな日差が君を包み込み、まるで君が輝いているように見え、とても眩しかった。その輝きの中に凛とした君がいた。その漆黒の瞳に僕だけを映して欲しい、しなやかなその指は僕だけに触れて欲しい、そして、君の心を僕で満たして欲しい。ああ、僕はこんなにも独占欲が強かったんだ…こんな醜い僕、手塚に知られたくない…。
「どうかしたのか、不二?」
部屋に入ったとたん、黙りこくってしまった僕に手塚が声を掛けた。
どうしよう…君と越前の関係を聞きに来たなんて言えない…まだ、黙っている僕にまた声を掛ける。
「なにかあったのか?顔色が良くない。少し休んだ方がいいんじゃないか。」
優しい手塚…真直ぐな手塚…そうだよね、越前は将来青学を背負って立つ後輩だから、君は育てたいんだよね、それだけだよね。
「ううん、大丈夫。手塚の顔見たら元気になった。ねえ、手塚…」
「なんだ?」
「好きだよ。」
「ああ、分かってる。」
「じゃあ、行くね。」
「ああ、無理するなよ。」
「ありがとう。」
やっぱり、好きとは言ってくれなかった…