STORY

□最終選考
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合宿で一緒とは言え、コーチと選手。おまけに班まで違うのだ、なかなか二人で話す機会はなかった。
『話をしたい触れたい』顔を見ることができるので猶更だ。不二はじれったい思いをつのらせていた。
そして、ある日話がしたい気持ちを抑えきれず手塚を探していた。その時だった、聞く気はなかったのだがコーチ達の話し声が耳に入った。聞いてはいけないことだと思い立ち去ろうとした時だった。聞こえてきた一人の名前。
『越前』
次に聞こえたのは
『そんなに大事か』
そして聞かなければ良かった君の声
『はい』

何の迷いもなく答えていたね。もう君の心は決まったんだ。
(一番大切なのは越前…)

僕はどう走ったのだろう。とにかく合宿所に居たくなかった。無我夢中でたどり着いたのはテニスコート。こんな時まで、僕はテニスから離れられないのかと思ったらおかしくて、笑った。コートに仰向けになり笑うだけ笑ったら、また涙が溢れてきた。空には満点の星。瞬いて見えるのは涙のせい…
僕は涙を拭うこともせず、ただ空を見ていた。

「こんなところで寝ていたら風邪をひくぞ。」

星の瞬きとともに、聞き覚えのある声が降ってきた。

「手塚…」

「お前は風邪をひきやすいんだ。今熱などだしたら、選抜レギュラーから外されるぞ。」

「君には関係ないだろう。」

「そんなことはない。」

「君は越前だけ心配していればいいんじゃない。」

「涙の理由はそれか?」

「関係ない!」

僕は立ち去ろうとして、起き上がった。合宿所に戻ろうと、手塚の横を通り過ぎた時だった。

「お前が泣いているんだ。平気なわけないだろう。」

懐かしい温もりに包まれた。僕もあまりの安堵感に腕の中にそっと包まれていた。だが、われに返って手塚の胸を押し返した。

「さようなら手塚。僕、そんなに強くないんだ…君から別れを聞きたくないから、僕からいわせて。
さようなら、そして今までありがとう手塚…」

僕は手塚に背を向け歩き出した。
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