STORY
□言えない言葉
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「不二、ちょといいか?」
俺はその足で、昇降口で靴に履き替えようとしていた不二を捕まえた。
「いいけど、部活始まっちゃうよ。」
「かまわん。大石に指示してきたから少しくらいは大丈夫だ。」
「僕も遅刻にしないでね、部長命令で遅れるんだからね。クスッ。」
二人で屋上に向った。テニスコートが良く見える。
「ねえ見てよ、手塚。桃と越前が準備体操さぼってるよ。グラウンド10周だね。」
「不二、話がある。」
「英二が大石をからかってるみたいだよ。」
「不二!」
「…何、話って…」
「俺はテニス部の部長だ。そしてテニス部には全国制覇という目標がある。俺は何としても全国制覇を成し遂げたい。そのためにも、部を盛り立てて纏めて行かなければならない。」
「そうだね…」
「だから、今は部に専念したいんだ。」
「うん…」
「部の規律を乱したくはない。」
「僕と手塚が付き合うと乱れるということ…?」
「ああ」
「僕と一緒にいたいとは思わないってこと?」
「…」
「僕より部活が大事ってこと?」
「部長だからな。」
「…最後に聞いてもいい?」
「何だ。」
「手塚…僕の事…好き?」
自信なさげな、最後は消え入りそうな声。勿論だ。好きなんて言葉では言い表せない程お前しか見えない。本当はお前にそんな顔をさせたくなどない。だが、俺の口からでた言葉は…
「くだらない事を聞くな。」
「…わかった…もう聞かないよ手塚。ごめんんね、今日は部活休ませて…」
今すぐにでもお前を抱きしめてやりたい。その震える華奢な肩を俺の腕の中で治めてやりたい。何度でも好きだと伝えてやりたい。俯いた顔を上げ、その小さな桜貝のような唇に触れたい。だが、俺が不二に言えたのは、
「明日、グラウンド20周だな。」
違う!こんな事を言いたいんじゃない!不二、泣かないでくれ。