STORY

□言えない言葉
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「ねえ、手塚。今日は一緒に帰ってもいい?」

幾度となく不二に誘われたが、俺は特別な理由がない限り不二と二人で帰ることを拒んでいた。休みの日に二人で会うこともしなかった。悲しそうな不二の顔を見たくはないが、この箍が外れたらきっと不二を一部員として扱えなくなってしまうだろう。部長として、それはあってはならないことだ。部の統率が取れなくなってしまう。そうなれば、俺は自分を許せなくなる。そしてその先にあるものは、部を纏める為に俺がしなくてはならないことは、不二と別れる事だ…。そんな事はしたくない。不二と一緒にいたい。俺の隣で笑っていて欲しい。だから今は、お前と部長と部員の距離を保っていたいんだ。付き合って分かったことだが、不二は結構な甘えん坊だ。近くに居たがるし、すぐ手を絡めてくる。気がつけば俺を見つめている。俺だってお前を抱きしめてやりたいんだ、ただ今は我慢してくれ。分かってくれるな不二…。

「英二、一緒に帰ろう。」

「うん、もっちろんOKだにゃ。マックに寄ってこう。」

「いいよ。ちょうどお腹がへっきたんだ。」

「じゃあね。みんなおっさきぃ!」

賑やかに不二と菊丸が部室から出て行った。あれ以来、不二から誘ってくることはなくなった。そして菊丸を誘って帰ることが多くなった。断る重荷が無くなったのだからもっと気が軽くなるかと思っていたのだが、不二と帰る菊丸を羨ましく思う自分がいる。
(なんて勝手な…)
自分で拒んでおいて…いや気にしてはいけない、国光お前は部の事だけを考えていればいいんだ。しかし、胸につかえるものは取れてはくれなかった。

不二が俺を誘わなくなって、2週間程経った。自分で決めた事なのに、淋しさが心を包む。それを振るきるように教科書を鞄にしまい、部活へ行こうと教室を出たとき
「手塚!」
背後から呼び止められた。振り向くと菊丸が廊下の壁に凭れ掛かっていた。いつものいたずらっ子のような顔はない。不機嫌を思いっきり表に出したような様子に、俺は話の内容が分かった。
「不二のことか。」

「そうだよ!」

「菊丸には関係ない。」

「手塚!」

「俺と不二との問題だ。」

「手塚は、どれだけ不二の事を理解してるって言うんだよ!」

「俺なりに理解しているつもりだ。」

「不二はクールな振りをしてるけど本当は甘えん坊なんだぞ!」

「分かっている。」

「淋しがりなんだぞ!」

「それも分かっている。」

「じゃあなんで、不二を放っておくんだよ!」

「放っておいてる訳じゃない。今は全国制覇のため部活を優先させるべきだと、不二も分かってくれているはずだ。」

「何も分かってないじゃないか!」

「…」

「不二は自分を殺して、我慢しているんだぞ!」

「俺も同じだ。」

「毎日、淋しくて淋しくて泣いているんだぞ!」

「!」

(泣いている…)思いもよらぬ言葉に、菊丸の顔を凝視する。

「もっと、不二と話をしろよ!別に手塚と不二が付き合っていたって、手塚が不二ばかり見ていたって、全国制覇は俺がしてやる!青学レギュラーを舐めるなよ!手塚の代わりの部長なら俺がしてやる!でも…不二にとって手塚の代わりはいないんだぞ!」
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