STORY(赤也不二)
□試合をしよう
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「ねぇ、試合組んで下さいっすよぉ!」
「次期部長は赤也じゃないか。自分で試合を組めばいいんじゃないかな。」
「そんなこと言っても、部長の引継やってくれないじゃないすかぁ…てか、次期部長の指名すらしてくれてないじゃないっすか!」
「あれ、そうだったけ?」
(何すっと呆けてんだよ!)
こんなこと決して口に出して言えるわけがないので、心の中で毒づいてみる。
「今は試合より、新人戦に向けて各自がレベルアップすることが優先なんじゃないかな。試合は、その仕上がりを見る為のものでもあるしね。」
幸村の言うことは尤もだ。だが、赤也には今でなければならない理由があった。
先日、夏休中に終わらなかった宿題を不二に図書館で教えてもらっていた時のことだった。
高校生くらいのカップルが(大学受験の勉強に来ていたのだろう)名前で呼び合っていたのを聞いて赤也は羨ましくなったのだ。
(やっぱ、恋人同士は名前で呼び合うっしょ)
「ねえ、不二さん。俺のことは呼び捨てでいいっすよ。」
「何?藪から棒に…」
「みんな赤也って呼んでるし。切原くんってなんか変な感じがするんっすよ。ねえ、いいじゃん、そう呼んでよぉ。」
「そう?別にいいけど。」
「じゃあ、俺も不二さんのこと周助って呼んでもいい?」
「なんで。僕の方が年上だよ。それに、君に呼び捨てにされる覚えもないけど。」
「はあ…そうっすね…」
そうなのだ。不二と赤也は付き合っているわけではないのだ。
幾度となく《好き》ということは伝えたのだが、面と向かってはっきりと言ったわけではなく、付き合って欲しいなどと口にしたことはなかった。
赤也のがっかりと肩を落とす姿があまりにも可愛く思えて、不二はクスクス笑ってしまった。
「なんか、可笑しいっすか!」
「そんなに僕を名前で呼びたいの?」
あかべこの様に何度も頷く赤也に、不二は笑顔で言った。
「別にいいよ。」
「マジすか!やりぃぃ!」
「でも、条件があるよ。」
「何すか?俺、何でもやちゃいますよ!」
「僕にテニスの試合で勝ったらね。」
「…!!!!!!!」
「君とまた試合をするのを楽しみにしてるよ。」
「もちろんっすよ!」
というわけで、赤也は早く不二を名前で呼びたいが為に試合を組む必要があったのだ。
コートを借りて2人で試合も出来るのだが、やはり不二を相手にするならみんなの前でやりたい。
前回の様な自分を見失うような事はないとみんなに知らしめたい。
不二に相応しい相手だとみんなに認めさせたい。
試合の申し込みくらい自分達で出来るのだが、他校のそれも引退した3年生を相手に試合をくむには、やはり幸村の力が必要だった。
「お願いします、幸村部長!」
幸村は肩肘をついて考え込んでいるようだったが、それはつい笑ってしまうのを隠すためだった。
(こんなに赤也が必死になってるのは何かあるな…面白そうなことになった)
「分かったよ赤也。試合を組もう。現時点の自分のレベルを知るのもいいことかもしれないね。相手は…」
「青学でお願いします!」
「全国一の力を実感するのもいいかもね。」
「ですよね!だから是非3年生を相手にして下さいっすよ!」
「そうだね…」
(ふーん、そういうことか)