STORY(赤也不二)

□ごめんなさい
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青学の生徒達が、校門に立っている他校生を不審そうに見て行く。
正門の前をウロウロしている、見かけないブレザーの制服を着た髪の毛がクルクルした子。

(何でだよ!…他校に入って行くのなんて、今まで全然平気だったじゃんか!何で今日は入り難いんだよ!)

理由は分かっている。
嫌われているかもしれない…
憎まれているかもしれない…
会っても知らん顔されるかもしれない…
ただ1人の人に…それが怖いのだ。

校門から校舎を覗いてみるが、知っている顔が見当たらない。
がっかりする半面、少しホッとする。
あの人に会う時間が少し伸びた。

(やっぱ、帰ろうかな…)

校門に背を向けたその時、

「あれ、切原じゃん。そうだよな、立海の切原赤也だよな。」

もしかしたら一番会いたくないが、一番都合がいい奴かもしれない。

「お、おう…桃城、久し振り…」

「何だよ、何か用か。分かった試合の申し込みだろう。お前、新部長なんだろ。うちもさ、マムシが新部長になりやがってさ、張り切ってんぞ!」

「…そうか…」

「こんなとこじゃ話しにくいからコートに来いよ。」

そう言うと、赤也の腕を取り引っ張って行く。
これは期待していたこと。なかなか入って行かれなかった自分を強引に連れって行ってもらえるのはありがたかった。
これが越前や海堂だったなら、
 
「用があるなら来ればいいじゃん。」

と、そのまま置いて行かれるか、

「何しに来やがった!」

と、追い返されていただろう。

ただ、連れて行かれるのはいいのだが心の準備が出来ていない。
なんと切り出せばいいのか、まだ分からないのだ。

「おーい、マムシ。立海の切原が試合の申し込みに来たぞ!」

「ん、何だと。」

切原と聞いて、周りがざわめく。

あの切原?
不二先輩にボールをぶつけた切原?
不二先輩の目を見えなくした切原?
乾先輩をボコボコにした切原?

聞こえてくる囁きは、決して良いものではなかった。

(仕方ない、自分がやったことだし…あの人もそう思ってる…?)

そう思うと顔を合わすのが怖かった。

「へーい、桃!どうしたのぉ、みんなの様子が変だにゃ!」

「立海の切原が来てんすよ。」

「ちわっす。」

桃城が向けた視線の先で赤也がペコっと頭を下げた。

「なんで、切原が来てるんだよ。」

滅多に怒ったことのない菊丸が睨みつける。

(しょうがねえよな。大事なチームメイト傷つけたんだからな…)

「あのさ、謝りに来たんすよ。」

「謝り?信じられないよ。」

「ホントっす。」

「俺にかな。」

低い声が菊丸の背後から聞こえてきた。

「乾!」

「乾先輩!」

相変わらず表情が読み取れない眼鏡。
淡々とした口調。
そんな乾を苦手としているテニス部員もいるが、赤也はすたすたと近寄ると声をかけた。

「グルグルの包帯はもういいんすか?」

「ああ、あれは少し大袈裟だったね。」

「痛みは?」

「もうないよ。」

「なら、良かったす。あの…」

乾の背後をキョロキョロと窺うがお目当ての人は見当たらない。

「あのさ…ふ、不二…さんは…?」

「お前、また不二になんかする気か〜!絶対に会わせないもんにゃ!」

「会わなきゃ来た意味ないっすよ。」

「切原が不二に会いに来た確率100%だな。俺はついでの確率93%というとこかな。」

「…」

本心を見透かされた様で赤也は何も言えなかった。

「この人も柳先輩も、人の心覗くの止めて欲しいっす…あっ!」

樹の陰から見え隠れする茶色がかった髪。
間違える筈がない。
この人に会うためにやって来たのだから。

「ふ…不二…さん…」

金縛りにあったかのように、身体が動かない。
しかし瞳だけはしっかりその人を映している。そんな赤也の代弁をするかのように、菊丸が手を振りながら不二を呼んだ。

「おーい、不二ぃ!立夏の切原が会いに来てるよぉ!不二に謝りたいんだって!」

「僕に?」

(うわ〜!来る!来る!)

不二が扉を開けコートへと入って来る。すると、動けなかったことが嘘のようにぱっと不二のもとへと駆け寄ると、両肩を掴み捲し立てた。

「頭痛くないいっすか?!あれから時々目が見えなくなったりしてないっすか?!後遺症とかないっすか?!怒ってないっすか?!!」

一息に捲し立てたことと緊張とで息が荒くなっっている赤也に目を丸くする不二だった。

(すっげー綺麗な目…)

不二に魅入り、無意識に掴んだ腕に力が入る。

「痛いよ…切原くん」

(テニスしてるのに何でこんなに白いんだろう…う)

「切原…くん、離して。」

(うちって、ムキムキじゃないけど筋肉バカばっかで、この人…何でこんなに細いんだろ…)

「離せ、切原!」

低く凛とした声に赤也は我に返った。
目の前には、不二から離そうと赤也の腕を掴見ながら睨みつける手塚がいた。
赤也はその手を振り払い、睨み返した。

「あんた、いたんだ。」

赤也にとって一番気に入らない人物。
いつも当たり前のように不二の隣に居る。
いつも仏頂面のくせに、不二には優しい笑みを見せる。
テニスが強いのも気にくわない。

「俺は不二さんに用事があるんすよ。」

「何の用だ。」

「あんたには関係ない!」

「謝りたいとか何とか、菊丸が言ってたな。」

「そうそう、ねえ不二さん…関東大会は悪かった…です…ね」

不二に振り返ると、手塚に見せていたものとは全く違う表情を見せる。
まるで叱られた子どものように、しょげている姿に不二は噴出した。

「怒ってないよ。君は人を傷つけることが目的ではなかったよね。ただ、勝ちたかっただけ…ちょっと度が過ぎたけどね。勝ちたい気持ちは僕にも分かるよ。だから、あの試合のことはなんとも思ってないよ。避けられなかった僕も悪いしね。あれはアクシデントだったんだよ。」

思いもよらない優しい言葉に、赤也は思わず不二に抱きついた。

「ごめん。ごめんね、不二さん」

その日から、何故か青学に赤也の姿が度々見られるようになった。

 




その頃、立夏では

「赤也は何処へ行った!練習をさぼるとは、たるんどる!!!!!」

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