STORY(未来編)

□再会
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高校でもこのメンバーで全国制覇したいからと言ったキミ。

テニス留学を止めて高等部へ進学すると告げられた時に、何故と言った僕への答え。

その時は素直にただ嬉しかった。
また3年一緒に居られるんだと…
でも本当は違ってたんだよね。
今なら、分るよ。僕の為に居てくれたんだね…僕の気持ち知ってたんだね…

高校での全国制覇は困難だった。
1年の時は僕達には出番はなく、都大会で氷帝に敗れた。
跡部に『何でお前ら出ねえんだよ!』と怒鳴りつけられたが、青学高等部はまだ先輩優先の慣例が残っていた。『話になんねえ!』と、跡部は鼻を鳴らして怒っていたっけ。きっとまた、手塚と試合がしたかったんだね。

2年では関東大会で立海に敗れた。
幸村と真田に、『中学での借りは返した』と勝ち誇るように告げられた時は悔しくて悔しくて、でも涙を堪え、もうこんな悔しい思いはしたくないと1年間厳しい練習にも励んできた。
もちろん、何処の学校も勝利を手にする為に歯を食いしばって頑張っているのだけれど…それでも僕たちは何処にも引けを取らない練習を積んできたと思っている。

だから、優勝旗を手にした時は嬉しかった。ただただ嬉しかった。キミの笑顔をまた見ることが出来たから…

祝賀会の帰り道、中退してすぐドイツへ渡ると告げられた。
もう日本に居る必要はないと…
その時に初めて気付いたんだ。僕を優しく包み込むような眼差しの中にある闘志を感じた時、キミはすでに世界を見ているのだと。
きっと、この3年間は世界に飛び出して行きたくてもブレーキを掛けていたのだろう。
責任感の強いキミだから、1度決めたことは遣り遂げなければ次に進めなかったんだね。
この3年間は、キミから僕への最後のそして精一杯の贈り物だったんだろう。

手塚が日本を発つ日、みんなで成田まで見送りに行った。キミは『言ってくる』と一言残し振り向きもせずに旅立った。
何か食べて行こうという誘いを断って、僕は1人青学テニスコートへ立ち寄った。
ここで僕たちは出会った。
グランド100周のキミの声が蘇る。
ボールで歪んだフェンスが目に留った。ここでよく腕組をしながらキミはみんなを見守っていたっけ。そう思うと変哲もないフェンスが愛おしく思えそっと握ってみるる。
ふと目をやると、鍵を掛け忘れたのだろう部室のドアが僅かに開いていた。
 
「物騒だな。」

僕は、そっとドアを開き中に入った。
3年前と変わらない様子に思わず笑みがこぼれる。
部活が終わった後の賑やかな着替え。
朝練前の眠たそうな眼差し。
全てがついこの間のように思われる。
そして左右に並ぶロッカー。
キミのロッカーはいつもきちんと整理されていたね。でも、僕は知ってるんだよ奥に時々山岳写真集が置いてあったことを。
手塚が使っていたロッカーのドアを指先で撫でてみた。冷たい感触。もう、キミの温もりは感じられない。
窓際に置かれた机ではキミは毎日日誌をつけていたね。それを見ながら待っているのが僕の日課だった。キミの長く細い指が美しい文字を綴る、それを見ているのが好きだった。
キミを待っているのが好きだった。
椅子に座ってみた。キミがいつも座っていた場所。
様々な思い出が溢れて来る。
キミの怒った顔
キミの困った顔
キミの苦痛に歪んだ顔
そして、キミの笑顔

僕の思い上がりではなかったら、手塚も少なからず僕に好意を持っていてくれたのだと思う。
でも、プロになり世界でプレイしたいという思いには敵わなかった。
だから、キミの気持を伝えることも僕の思いを聞くこともせずに日本を発つんだね。
キミの活躍を祈っているよ。
さようなら、手塚。
キミが大好きだった。

「手塚…手塚…」

今だけだから
泣いてもいいよね

「手塚…さよなら…手塚…ううっ」

涙が僕の思いも流してくれたらいいのに…
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