STORY(跡不)
□優しい君だから
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「坊っちゃま、お客様がお見えですがいかがいたしましょうか。」
「客?!どこのどいつだ?」
1人だけの静かな時間が欲しかった跡部は不機嫌むき出しに言った。
「はい。青春学園の不二様とおっしゃる方ですが。」
「不二だと!…わかった、俺様の客間に通しておけ。」
大会でもよく見かけるし、試合も見たことがあるので青学の不二のことを跡部は知っていた。
もちろん数々の華麗な技に魅せられたのも事実だが、大切なものを守るためののテニスは圧倒されるものがある。恐ろしい程だった。
「うちのジローもこてんぱんにやられたしな。」
そして、観月を非情なまでに徹底に叩きのめしたルドルフ戦。
「あいつの逆鱗に触れたくはないな。」
思わず苦笑いをしてしまう。
穏やかな優しい笑顔が一転する。
普段は目を奪われるほどの美貌…いや、美しいが為に怒りに満ちた不二は見る者を凍らせる。
「まるで雪の女王だな…」
1人の時間を邪魔されたという不快感はいつの間にか、来客を歓迎し会うことの楽しみへと変わっていた。
「よう、待たせたな。」
「突然来たりしてごめん。」
「ふん、構わねえよ。ところで何の用だ?お前が来るなんて余程大事なことか?」
不二は何か言うのを躊躇っているようだった。
跡部の視線から目を逸らし何かを考えているように一点を見つめていた。
不二から言葉が出てくるまで跡部は待つことにした。
家まで来るからには彼にとって大切なことなのだろうし、不二が言い淀むなんて珍しいことに違いないと思ったからだ。
不二は、跡部が自分から話しだすのを待っていると感じ一回唇をキュッと噛みやっと口を開いた。
「あの…手塚のことなんだけど…」
「手塚だと!」
今一番気懸りな人物の名、跡部を自己嫌悪に陥れている人物の名が不二の口から出ると、跡部は思わず大声を上げてしまった。
「ごめん、何か驚かせちゃったかな…」
「いや、何でもねえよ…」
思えば不二が跡部を訪ねて来るなんて手塚のことしかあり得ない。そう先日の試合の事しか考えられない。
手塚が肩を壊したあの長い長い試合。
さっさと終わらせるつもりが、逆に長引かせてしまった…部長の意地…チームの為様々な思いが交差しお互い一歩も引けなかった関東大会の一回戦。
「俺様に文句でも言いに来たのか?」
跡部はそう言いながら、何故かしら悲しい気持ちになって行った。