STORY

□みんなの気持ち  僕の気持ち
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寒いと思ったら雪が降っていた。僕は窓を開け、空を仰ぐ。鳥の羽のような雪が後から後から降ってくる。外を歩く人も車もなく、ただ静かに白い羽が僕の視界いっぱいに広がる。見ているだけでは物足りなく、僕はマフラーだけを首に巻き外に出た。

「わーっ、凄いや。」

見上げれば空一面の雪。
冷たい空気が僕を包み込む。鼻の奥がツキンと痛む。無意識に胸の前で両手を擦り合わせていた。しかし、そんな寒さも気にならないほどこの世界に浸っていたかった。
この世界は自分だけの物、そんな錯覚に陥りそうなほどの静けさ。
僕は今後テニスを続けようか、それとも写真の道に進もうか迷っていた。趣味で自然をメインに写真を撮っていたけれど、もっともっと自然界に近づきたいという気持ちが強くなっていった。青学高等部は運動部もさかんだが、文化部…とりわけ写真部・新聞部は全国大会で入賞するほどの実力を持っていた。
留学を希望している手塚と家業を継ぐタカさん以外はまた一緒だと思っているみんなの顔を見ると誰にも相談なんて出来なかった。
そんな悩みも忘れたくて、僕は夢中になって見上げていた。

『キキーッ!!!!』

車に気付くのが遅れた。
スリップした車は僕に吸い寄せられるように迫ってくる。眩しい光。静寂を破るクラクション。
僕はどうなったんだろう。





気がつくと、白い天井、白い壁。無機質なピッピッという音。
僕の知識で考えると、ここは病院かな。そうだ、きっとあの後僕は車に跳ねられたんだ。でも何かおかしい…。だってどこも痛くないし体がとても軽い…。あれっ?これは僕…?
そう、たくさんの管に繋がれ、体のあちこちを包帯に包まれベッドに寝ている人…僕だ。たぶんここはICUなのだろう。看護師さんが僕に繋がれている機械を時々覗きこみ肩をすくめる。
慣れてくると自分で移動が出来るようになった。
ICU前の廊下には母と姉がいた。母は膝の上で手を合わせ、姉は顔の前で手を合わせていた。二人とも青ざめた顔に赤い目をしている。

『ごめん、心配かけちゃったね…』

二人の肩に手を置き耳元で囁いてみたけど、僕の声は二人には聞こえないみたいだった。とても親不孝をしているような気になってくる。

『事故なんて、それ自体親不孝かもしれないけど…』

しんみりしていると、バタバタバタと、早く目的の場所へ行きたいという気持ちと病院だから静かにしなくてはという気持ちが入り混じった足音がした。

「兄貴は?!!」

「怪我自体は大したこと無いそうなんだけど…頭を打ったみたいで、まだ意識は戻らないのよ…」

母に代って姉が答える。

「おい!兄貴、目ぇ開けろよ!」

『ごめん裕太、わざわざ駆けつけてくれたんだね』

後ろからそっと抱きしめてみる。いつもなら真っ赤になって子どもみたいなことするなって怒るのに…大きくなったね、背丈も肩幅も僕より大きいね。そしてこんな時ワアワア泣いてたのに、今は必死に我慢してる、母さんと姉さんにこれ以上の心配をかけたくないんだろうね。男らしくなって…頼もしいよ裕太…。

「母さん、裕太も来てくれたし、少し向こうで休みましょう。」

姉の提案で3人が喫茶コーナーに行ってしまったので、僕は早く安心させたくて体に戻ろうとした。が、あれっどうすればいいの?戻れない…
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