STORY
□守りたいもの
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強敵立海大附属を倒し、関東大会を制覇した青学はますます勢いづき盛り上がりをみせていた。
「よーし、全国制覇必ずするぞぉ!ねえ大石。」
「ああ、自分たちの力を信じていこう。」
「マムシ、今度は負けんなよ!」
「なにぃ、負けたのはてめえの所為じゃねえか。」
「まあまあ、2人とも。ダブルスは2人の力さ、勝ってもまけてな。お互いのデーターをよく分析しないといけないな。」
ここは、いつもの河村寿司。九州にいる手塚と、頭にボールを受け念のために病院に行った不二以外が集まって祝勝会を開いていた。
「おっと、携帯にゃ!…あっ不二、どうだった…そうか良かった…うんうん…まだいるよ、不二も顔だしなよ…そうわかった。待ってるよ。」
「英二先輩、不二先輩から?どうだったんっすか?」
「おちびも心配してたんだぁ、何の異常も見られなかったって。これから来るってさ。」
「よーし、不二のためにわさび巻作っとくかぁ!わさび大サービスてなモンキー!」
「みんな待ってるかな、急がなくちゃ。」
不二は河村寿司へと急いでいた。みんなに心配掛けてはいけないと平静を装っていたが、内心このまま見えなくなってしまったらと不安でいっぱいだった。だから、脳波に異常がないと医師に言われた時には心底嬉しく安心した。まだまだテニスは出来ると。こんな時、部長としても友人としても、何より想い人である手塚がいてくれたらと思ってしまう。
「ダメダメ!手塚だって1人で頑張っているんだ。それに、僕にはチームの仲間がそばにいてくれるんだから。」
早くみんなに会いたいと思い、足を速めた不二の前に一人の男が行く手を遮った。
見たこともない男を不二は訝しげに見やった。
「青学の不二くんだね。」
「…あなたは誰です。」
「今日は大変だったね。」
「…」
「おかげで君の潜在能力の片鱗を見せてもらったよ。見えないのにあの立海の切原に勝つとはね。やはり、君は危険人物だ。」
「…何の用ですか…!」
「そんなに警戒しなくてもいいよ。ただ、君にお願いがあるんだ。」
「…お願い…?」
「全国大会で試合に負けてくれないか。」
「…はっ?」
思いもよらぬ言葉に混乱したが、もともと頭の回が速く冷静な不二は自身を取り戻した。
「それは、僕にわざと負けろと…いわゆる八百長をしろということかな?」
「君たち青学が勝つと具合が悪い人がいてね。もし協力してくれたらお礼もあげよう。」
男はにやりと笑ったが、笑ったのは口元だけでその眼は鋭く冷たかった。大きく見開いたその眼は不二から一瞬も逸らさず、近づくわけでもなく一定の距離を保ったままなのが、不気味だった。
「ありがとう…とでも言うと思ったの…冗談じゃない、僕たちはベストを尽くして戦う!それが青学だ!」
不二はそう言い放つと、男の横を走り抜けた。その時に呟いた男の言葉など聞こえぬ程その場を去ることだけでいっぱいだった。
「どんな手を使っても負けてもらう…」