その他夢

□あなたじゃないと
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 私がナルとジーンと出会ったのは、研究所だ。








 研究材料として扱われてきた私は、当時精神も体もぼろぼろで、SPRに保護されたときには感情のない人形みたいになっていた。







 ナルとジーン、二人を紹介されて年も近いからと一緒にいることが多くなった。でも穏やかなジーンと違ってナルは無愛想でにこりとも笑わない。そんなナルが苦手で……ナルも私にそれほど積極的に近づこうとしなかったから、そんなに関係がなかったんだけど。
 




「……名無しさん」



「っ! な、なに……?」





 ジーンが出かけてて、狭い部屋に私とナルと二人きり、というなんとも気まずい状況。肩身の狭い思いをしながら縮こまってココアを飲んでいたらまさかナルから話しかけてくるという予想もしない事態が起こって。



 びくびくしながら首をかしげると、ナルはジーンとは違う……深い深い瞳でひたと私を見つめた。





「まだ怖い夢を見るのか」



「っ!」


 カップを持つ手が震えた。








 それは、だれにも言っていないことだった。



 SPRに保護されてからも以前に行われていた実験の、生活の夢を見る。……悪夢を。





「サイコメトリしたの……?」



 正直知られて楽しい話じゃないだけに、責めるような口調になってしまった。ナルは少しだけばつが悪そうに視線を逸らした。





「……君のペンケースに触ったら、見えたんだ」




 その言い方は、わざとではなかったのだと知らせるもので、私は小さく息を吐いた。









「忘れたい、けど……忘れられない……」



「……」



 
 前みたいに何を言われても何も感じないようにしていた生活じゃない。今は少しずつ感情を取り戻すように心がけてるし、研究所の人たちも私が過ごしやすいように環境を整えてくれてる。だけど……。





「……ここは、SPRだ」



「……」



 ナルが言い聞かせるような声音で私に言った。それに少し首をかしげると、ナルは重ねて言った。




「ここは安全だ。君を怖がらせるものは何もない。怖がるな」



「!」



「ジーンもいる。研究所の人たちもいる。君を傷つけるものはもう何もない」




 もしかして、私を安心させようとしてくれてる? 元気づけようと?



 この子は……冷たい子だと思ってた。ジーンと違って冷たい子なんだって。でも……もしかすると誰よりも他人の痛みのわかる優しい人なのかもしれない。サイコメトリの能力は他者の体験を自分のものと感じるから、余計に……。




 そう考えるとなんだかぽっと灯りがともったように胸の奥が温かくなった。





「……ナルも、いてくれる?」




 するりと口から飛び出した言葉に内心自分で驚く。でもそれ以上に目の前にいるナルが少しだけ目をみはった。でもすぐに何もなかったような表情に戻る。




「ああ」




「そっか……ありがとう」




 私はふわりと笑った。




 きっとこの研究所に来てはじめて心から笑えたんだと思う。







 その日の晩から、私は悪夢を見なくなった。






 ……その日から、ナルはずっと私の中で特別な人。


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