遙か夢弐

□勇気を出して
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浜辺で景時さんが作った花火を見ながらみんながはしゃいでいた。




それを眺めながら私は昼の熱を少し宿してほんのり温かい砂の上に座った。






お姉ちゃんがいて、譲くんがいて、将臣くんがいて、いつもと同じなのに少し違う。

四人だけじゃなくて、他にもいっぱいいっぱい人がいる。

元の世界だったらこんなのありえないなぁ。

お姉ちゃんの周りに人が集まるのはいつものことだけど、こんなきれいな顔した人ばかりが集まるなんて。そしてその人たちが私のことも受け入れて普通に接してくれるなんて。
















感慨深くてそれを眺めていると、隣に誰かが座る気配がした。




長い前髪の下から隣を窺うと、赤い色が目に入って私は慌てて前を見た。







ヒノエくん、だ……。






ヒノエくんが、なぜか怖い。





華やかな気性のせいかもしれないし、ことさら女性への興味が高いこともあるかもしれない。





それに、まぶしいから。




九郎さんと同じで、どんな闇も跳ね返しそうなまぶしさを持っているから。







私と、正反対。








「混ざらないのかい?」



「お腹、いっぱいだから」





将臣くんたちが海の幸をバーベキューみたいにしてて、その合間に景時さんが花火を打ち上げて、そんな華やかな場所に混ざるのがなんだか怖い。





うまく混ざれるかなんてわからないし、どんな風に話せば相手に不快感を与えなくて済むのかわからないから。






「・・・・・・名無しさんは、人が怖いの?」




「……っ!」


いきなり核心をつかれて、私はぎゅっと体を縮めた。


「・・・・・・オレも、怖い?」


華やかにお姉ちゃんを口説くときとは違う静かな声に少し戸惑いながら、私は微かに震える手をぎゅっと握った。


「・・・・・・こんなのオレの柄じゃないんだけどね。長年一緒にいたやつらじゃないからこそ言える言葉もあるよね」



「・・・・・・」


「何か、あった? 嫌なこと言われたとか、そういうこと」


優しい声が、怯えた心をくすぐった。
興味本位じゃなくて、優しく解きほぐすように尋ねる声に、私は小さな声でぽつりとつぶやいた。



「・・・・・・昔」


「うん」


「昔・・・・・・嫌いって言われたの・・・・・・そんな顔した、あんたが嫌い。一緒にいると不愉快。望美ちゃんのおまけのくせに、生意気。ちっとも綺麗じゃないくせに、望美ちゃんや将臣くんや譲くんと一緒にいると、場違いだって・・・・・・」



泣きながら、怨嗟の声をあげたのは……当時ずっと一緒にいた友達だった。
私たち親友だよね、なんて声に出さないまでもお互いそう思っていると信じてた。

だからこそ・・・・・・ショックだった。


「私、顔が綺麗じゃないし……あんまり人とうまく話せないし、少し仲良くなれた気がして話すと変な空気にしちゃうし……だから、人づきあいがうまくなるまで、あんまり人に近づいちゃダメだなって……」


「名無しさんは上手く話せてるよ」


「え……」


少し日に焼けたヒノエくんが私を見て頬をゆるめた。


「人とうまく話すってなんだろうね。人を飽きさせない話をするやつは確かにいるよ。相槌の間合いが上手い奴も。話すのが苦手ってやつも確かにいると思う。でもさ、一方的に話すだけよりも、こうしてちゃんと自分の考えを伝えられるなら、お前は上手く話せてるよ」



「ヒノエ、くん……」


「それに、どっちかというと、お前は聞き上手だね。人の話を根気よく最後まで聞ける人だ。自分の話はしたいけど、人の話は聞かなかったり、聞いたふりをしてすぐに自分の話に戻すやつより、名無しさんの方がよっぽど感じがいい」


「・・・・・・」


まさか。

まさかそんな風に言ってくれるとは思わなくて、私はまじまじと優しい笑みを浮かべたヒノエくんを見つめた。



「言葉数が少なくても、一生懸命考えて一番いい答えを自分の中で探してるんだろう? 確かに何かしらの反応をすぐに返した方がよかったり、せっかちな人間には苛々させるかもしれないけど、お前は不愉快じゃないよ」


言い聞かせるように優しい言葉がすとんと胸に落ちてくる。


こんな感覚、久しぶりだった。


ぽろぽろ涙がこぼれだして慌てて拭うけど止まらない。



―――嬉しい。



そう言う風に言ってくれて嬉しい。

何度となくお姉ちゃんたちには慰めてもらってきた。でもそれは根本的な解決を促す慰めじゃなくて。


涙を隠すために俯く。


ヒノエくんを怖いと思っていたことをすごく申し訳なく思った。


普段華やかなだけで、ものすごくよく周りを見ている人だ。

そして、度量の大きい人。




「俯いてたらいいことや綺麗なものがあっても見えないだろう? ほら、顔をあげて。オレを見て」

ぼろぼろ涙が溢れて頬と眼鏡を濡らす。
前髪が隠してくれているけれど、ヒノエくんがそっと私の顔を持ち上げてメガネをはずした。



「ほら、かわ・・・・・・」

「……っ?」


私の顔を見て、ヒノエくんは笑顔を固めた。


そしてすぐに眼鏡と私の顔を拭いて眼鏡を顔に戻してくれる。


「眼鏡、そのままがいいね。外しちゃダメだよ。特に他の男の前では」


「う、ん?」


「でも前髪は切ろう」


「えっ!?」





「人付き合いがうまくなってから少しずつ人と話そうなんて本末転倒だ。それは人と接していくうえでうまくなるものなんだからね」




にっこりと笑って言われた言葉に、私は微かに笑ってこくんと頷いた。
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