遙か夢弐

□こころのかけら
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遙かなる時空を越えて、私たちは江戸時代にやってきてしまった。



でも私たちの世界とはだいぶ違うみたいなんだけど。



崇くんだけがいない。


どこかへ行ってしまった。




でもそれにどこか安心した。



きっと彼は無事なんだと、どこかで思っていたから。
















「はぁ……」


ままならないことは世の中たくさんあるもので。


城の庭を一人で散策しながらぼうっと空を見上げる。






「あ、きれい……」




落ちてきそうなほどの星が夜空に煌いている。





もう、なくなってしまっているかもしれない星の光。だからこそ、はかなくて美しい……。










「……どうして」











どうして、私じゃなかったんだろう。



ゆきだったんだろう。



龍神の、神子……。




ゆきよりも長い髪がいけなかった?




ゆきよりもネガティブな性格が?






「……どうして」






双子、なのに……これほどまでに、違う。









「切なげな顔をして、どうしたんですか? 龍神の神子の姉君」










「……っ! ……天海」






突然現れた宰相殿に私は心なしか構えた。







ゆきは全幅の信頼を置いたみたいだけど、私は違う。この人のことがうさん臭くてかなわない。




分かるのはゆきに害をなす存在ではないだろうとだけ。






「……私には名無しさんという名前があるんだけど、わかってはもらえなさそうですね」





「……君は面白い。神子と同じ顔、同じ声、それを持ちながら……神子ではない。じつに、運命というものは残酷だ」








「……」





「戦う術は欲しくないですか? 君の存在する意味は? 大切なものを……守りたくはないですか?」





「……何を、言ってるの?」





「私は、龍神の神子が欲しい。彼女だけを待ち焦がれてずっとずっと生きてきた。やっと出会えて感無量、というところなんですが……世の中、ままならないものですね」





「……」




「彼女を主に選んだ龍神は力がない。よって、彼女は自らの身を…命を犠牲にする時期が必ず訪れる」





「えっ?」





ゆきの、命……?






「君は神子の双子の姉でありながら、自分よりも愛され、恵まれ、素直な妹を羨んでいる。けれど……だからといって彼女が消えればいいと望むような性格ではなさそうです」






「あ、当たり前……っ!」




「だからこそ、君に選択肢を与えましょう」





「……」






「これは取引です。君に戦う術を与えましょう。その代り……彼女が命を削り始めたその時は、それを肩代わりすることを」





「かた、がわり……」
















「龍神の神子の死より、君の死が早く訪れるということですよ」
















「……」



何を言われているのかわからなくて、頭の芯がしびれたようになる。



……何?



この人は、何を言ってるの?







「君に情報をあげましょう。龍神の神子は怨霊を封印し、穢れを祓い、五行を正します。それは合わせ世……君の大切な桐生兄弟が生まれた世界を消滅させるということ」





「瞬兄と、崇が……生まれた世界?」





突然家の庭に現れた二人。



突然家族になった二人。



そして時空を越えた私たち。


これよりも違う世界があった?



そこで……二人は生まれたの?











「……呑み込みが早いようで嬉しいですね。神子の役目を果たすと同時に、彼女は君から大切な人を奪ってしまう。だからこそ君は、彼女の命を長くこの世に繋ぎ止めて希わなくてはならない。誰もいなくならない、誰も失わずにすむ、未来を……」






「……」






誰かの話をうのみにするなんて、ゆきの専売特許だったはずだ。





それなのに……なんで私はこうまで揺れているんだろう。





「……それで」



「…」





「それで、私は私の大切な人たちを一人残らず失わずにすむの?」




「ええ。誰一人として」





そして私は……悪魔の手を取ったんだ。
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