遙か夢弐
□迷惑なのは
1ページ/3ページ
ぎゅうっと抱き着いたら彼はものすごく嫌そうな顔をした。
「邪魔なんだけど」
「離れないからね!?」
「なんで私に抱き着くの。龍馬に抱き着けばいいじゃない」
「な……!? できるわけないじゃない!! そんな恥ずかしいっ」
私の言葉に小松さんはさらに嫌そうな顔をしたけれど、でも押しのけるような真似はしなかった。こういうところは徹底して紳士だなぁ、と思う。
「私に抱き着くのは恥ずかしくない、と。普通逆じゃないの? というかそもそもこんなにべてべたする女性がいないか」
「褒めてくれてありがとう!」
「褒めてない。大体なんだって抱き着くの?」
心底迷惑そうに言われて私は言葉につまった。
理由を言えば余計にバカにされそうだけども。
「……龍馬に」
「なに?」
「龍馬に嫉妬してほしいな、なんて思って…」
「……」
「あ、いま呆れたでしょ? けっこう切実なんだから!」
「何がどういう風に切実なんだい?」
「だって龍馬ってばゆきにも都にも私にも同じ態度なんだもの。恋仲って感じしなくって」
「それでこれ?」
「うん。小松さんならいいかな、と思って」
「何をどう考えれば私ならいいになるんだろうね」
「瞬は問答無用で引きはがされるでしょ? チナミは顔真っ赤にしてお説教されるだろうし、総司は淡々と邪魔ですって言うだろうし、桜智さんはゆきにしか興味ないし、アーネストだと普通に抱き返されてエスコートされちゃいそうだし!」
「……高杉は」
「抱き着けるかどうかわからなかったので却下です」
「……子猫にでもなつかれた気分だね」
「そう?」
「そもそもね、君、龍馬がいないところで私に抱き着いても一緒だと思うよ?」
「予行練習?」
「わけがわからない。それに私よりもっといい人がいるよ」
「え? だれだれ?」
「耳貸してごらん」
「うん!」
.