遙か夢弐
□互い、気づかず
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「月……」
落ちてきそうなほどの満天の星空の中、煌々と輝く月の光に手を伸ばした。
届くかもしれないと。
「……何をしている?」
「あ、あの……月に手が届くかもしれないと思って」
夏の虫が鳴いている。
夜の空気が支配する薄闇の庭で、私は闇に溶けそうなその人の装束の中から月の光にきらめく金色の髪を見つけ出した。
いつもより幾分ラフな恰好をしたその人に呆れられてしまうかもしれないとドキドキする。
「そうか。確かに、見事な月だ」
微かに目を細めて月を見上げるその姿に見惚れる。
「……リズ先生も、お月様みたいな人ですね」
「私が、か?」
驚くリズ先生に微笑みかける。
「はい。みんなを穏やかな光で包んで、導いてくれる……そんな優しい存在だと思います」
「……そうか」
あ……。
きっと今、喜んでくれてる。
目元が和んで、優しく笑ってくれてる。
そんなささやかなことがとても嬉しかった。
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