遙か夢弐
□素直は美徳なれど
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何週間も一緒に過ごすとだんだん互いに打ち解けるようになった。
小松様は優しくて、時折いじわるなことを言うけど、気遣いの細やかな素敵な方だった。
街を徒歩で歩くたび女性達から歓声があがるのがすごいなと思って、それにいちいち笑顔で返す小松様を尊敬した。
「はい」
「……なん、ですか?」
「お菓子だよ。それとお茶」
「……」
それは見ればわかる。
聞いたのはなぜそれを私の前に置くのかということだ。
「嫌い? だったら他の物を用意させようか」
「い、いえ! そこまでしていただかなくても……っ!」
慌てて止めると小松様は自分用に淹れてあったらしいお茶をこくりと飲んだ。
「じゃあ食べなさい。私の休憩に付き合って」
「……はい」
私は仕事をしにここにいるはずなのに、こんな待遇をされていいのだろうかと思いながらお菓子を口に運ぶ。
「!」
美味しい……っ!
思わず無言でせっせと口に運んでいると小松様が小さく噴き出した。
「く…………っ、君ずいぶん美味しそうに食べるね」
「あ……す、すみません……」
子供のようだと言われた気分になって私は小さくなってお菓子を口に運ぶ手を止めた。
「怒ってないよ。かわいいと言ってるんだ」
「……っ」
くすりと唇に笑みをはいて流し目をくれる小松様に、私は真っ赤になった。
「そういえば、君は龍馬とどこで知り合ったの?」
「拾っていただいたんです」
「……拾って?」
「はい。両親は不逞浪士に殺されてしまいました。身寄りがなく、妓楼に売り飛ばされそうになったところを拾っていただいたんです」
「……そう。仲がいいみたいだね」
「はい! お師匠様は、私の絶対、唯一の人ですから」
ぐっと拳を握って力説した私から、なぜか小松様は視線を逸らした。
「……そう」
「小松様?」
「今日はもう下がっていいよ」
「? はい……では、これで失礼します」
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