遙か夢弐
□愛し君
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「……帰ってこない」
帯刀が仕事を放棄してる、なんて噂がまことしやかに囁かれだしたころ、帯刀はなんてことない顔で屋敷に顔を出した。
「帯刀……っ」
走り寄ろうとした私が足を止めたのは、段差に気を付けるように帯刀が後ろの女性に手を差し出したから。
雪の妖精みたい……。
白くてふわふわしてて……とってもかわいらしくてきれいな人。
「足下に気を付けるんだよ。君は足元への注意が不足してるからね」
「小松さん……ありがとうございます」
「……お嬢、そこは怒ってもいいところだぞ?」
「え?」
龍馬も一緒にいる。彼女は誰なんだろう?
他にも知らない人がいるし……。
「お! 名無しさんじゃねぇか、ひっさしぶりだなぁ!」
明るい笑顔で私を見た龍馬に戸惑った視線を向けつつ帯刀を見て……その視線に冷たいものを感じて私は一歩後ろに退いた。
「……りょ、ま」
「ん? どーした、こっち来いよ」
「龍馬、名無しさんはほっときなさい。私たちは遊びに帰ってきたわけではないんだよ」
「……っ」
ほっときなさい。
その冷たい言葉に目をゆるゆると見開いて。
もしかして私はいらなくなったのかもしれないと思った。
捨てられてしまう。
「何言ってんだよ、帯刀! お前がいない間ずっと待ってたんだろ?」
「いいから。ほら行くよ」
帯刀が他の人みんなを引っ張って自室の方へと去って行って。
龍馬の心配そうな視線を受けながら私はぽつんとその場に残された。
(必要とされなくなったならどうすればいいのか)
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