遙か夢弐
□愛し君
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「……いい加減離れてくれないかな? 君のせいで全く仕事が進まないんだけど」
呆れた口調でそう言われても、私は帯刀から離れることが出来ない。
彼が後ろの手をついて態勢をたもっていなければ半ば彼を押し倒した状態で。
「……」
「いい加減何かしゃべってくれる?」
はぁ、とため息とともに吐き出された言葉にびくりと肩がはねる。
怒らせた? 呆れられた?
そろりと離れると、帯刀がじっと私を見た。
そしてくいっとあごを上げられていじわるな笑みで問いかけられる。
「何……私に欲情でもした? 押し倒したいくらい?」
「っ!!」
違う、と言いかけてでも、違わないかもしれない、と思ったら言葉が出てこなくて、泣きそうになりながら私はほてった顔で困り切ってしまった。
「……なんて顔してるの」
「…え?」
呆れかえった顔で放たれた言葉にわけが分からず私は首を傾げた。
「その顔、私に襲われても文句言えないから」
「ええっ?」
「仕事は明日まとめてするよ」
そう言って、よいしょと私の体を抱え上げた帯刀に混乱する。
もしかしてさっき無理やり私をどけようと思ったらどけれたんじゃないの?
どけずにしたいようにさせてくれてるのに愛を感じればいいのか、それとも今こうして運ばれていることに危険を感じればいいのか。
細身で運動なんて出来なさそうな顔をしているのに実際はとても機敏で男らしい帯刀。
でも今は……。
「お、おろして……っ」
「出来ない相談だね」
「な、なんで!?」
「だって君が私を煽るから」
「煽ってな……っ」
「煽ったの」
「うぅ……」
「……だから大人しく私に食べられなさい」
ふわりと優しく降ろされたのは帯刀の部屋の布団の上。
髪留めを外して眼鏡も外して、するりと一番上に羽織った服を脱いだ帯刀の色気にくらくらしながら、私はこれから訪れる甘い時間を考えてぎゅっと目をつむった。
(あいくるしいほどに君のことが)
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