遙か夢弐
□頑張ります!
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「お掃除、します!」
突然の私の宣言に、九郎は変な顔をした。
「……」
「女中さんのお手伝いしてくるね!」
元気よくそう宣言して水場に走り出そうとした私の襟首を、九郎がぐいっと背後からつかんで引きとめた。
「やめておけ」
「ぐ……っ! な、何するの?! 首しまるじゃない!!」
「いい子だからやめておけ。皆の仕事を増やしてやるな」
諭すような口調で言われて私はむっとした。
増やすわけないじゃない! 減らしにいくんだよ!
……ああ、でもきっと九郎はあんまり身の回りを世話してくれる人の仕事内容がわかってないからそんな風に思うのかも。
「九郎」
「……なんだ」
「あのね、お掃除とか洗濯とか料理って、人手が増えれば一人一人のやることが減るんだよ?」
私のその説明に、九郎はますます変な顔をした。
「……俺が言いたいのはだな」
「だから行ってきます!」
「あ、こら待て!」
九郎の手の力が弱まったと同時に私は走り出した。
「……はぁ」
「九郎殿、名無しさんさんはきっと九郎殿の役に立ちたいと思っているんです」
朔殿が少し困ったような顔で肩を落とす俺にそう言った。
「お側に置いておきたいのはわかりますが……」
「違うんだ、いや違わないが……」
「え?」
「…あいつは俺以上に箱入り娘なんだよ。それも桐の箱に入れられた、な」
「あの…」
「あいつに家事などできん。失敗して仕事を増やすのがオチだ」
「まぁ…」
頭が痛い。
思い込みが激しいところもあるあいつのことだ。
きっと…
「きゃあああああ!」
バシャーン!!
「……ほらな」
「……」
朔殿に同情をふくんだ目で見つめられてしまった。
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