遙か夢弐
□気持ちの行方
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「景時さん!」
「え? わぁっ!」
その広い背中に後ろから抱き着いた。
「名無しさんちゃ〜ん……女の子がそんなことするものじゃないよ?」
「いいんです! 景時さんだから!」
「う〜ん……」
苦笑いをする景時さんに笑顔を返す。
だってあなたと出会えたのは運命なんだから。
ずっとずっと大好きだった。
まさか本当に会えるだなんて……人生って何が起こるかわからない。
「!」
「じゃ、もうこのまま朝ごはん食べに行くよ」
景時さんのお腹に回した手を前からきゅっと握られて、胸がどきりと高鳴った。抱き着いていることを許されたような感覚に、思わず頬がゆるむ。
広い背中。
大きな手。
温かい。
優しい人。
好きです。
心の内だけで告げて、私たちはおかしな恰好をしたまま歩き出した。
「うわ!
お前らなんて恰好してんだよ!?」
「あ、あはは! 将臣くんに見られちゃったか」
「将臣くん? おはよう!」
照れる景時さんの背中からひょいっと顔を出して挨拶をすると、将臣くんに微妙な顔をされてしまった。
「お前なぁ、もう少し恥じらいってのを持てって。ほんとに俺達と同じ世界から来たのか?」
「もちろんだよ! しつれいなっ」
「あー、はいはい。でもそろそろ離れろ。飯だぞ」
「そうだね。よ、っと……」
景時さんに抱き着いていた手をはがされて、なんともさみしい心地になる。でもそんな私に気づかずに景時さんは居間へと入っていった。
「なんだ? 邪魔したか?」
「……すごく」
にやにやしながら将臣くんが尋ねるものだから、思わず拳で肩を殴ってしまった。
「いてぇ!」
「うるさーい!」
「んだよ。お前も飽きないよなぁ……抱き着いて、ひざまくらさせてって……スキンシップ多すぎねぇか?」
「……」
自分でも自覚してる。
スキンシップ過多だって。
でもそれ以外に自分の好意を伝える術を知らないんだから……仕方ないじゃないか。
「しかも徹底的に景時にしか行かないしな」
「だって……ただでさえ眼中にないのに、他の人にもべたべたしてたら余計に脈がなくなるじゃない……」
「まぁ、それもそうだな」
将臣くんは困ったように笑って、私の頭をくしゃりと撫でた。
「将臣くん?」
「お前が幸せならそれでいいさ」
「?」
どうしてそんな顔をするんだろう?
「そういや、さっき譲がはちみつプリン作ったって言ってたぞ」
「ほんと!?」
「ああ。食べに行くか」
「うん! 行く!!」
私がぱっと笑みを浮かべると、将臣くんがふわりと笑ってくれる。
景時さんは胸がドキドキするような、そんなときめきを覚える人。
でも将臣くんは、この人の隣にいれば大丈夫と思えるような安心感を与えてくれる人。
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