遙か夢弐
□夢か現か
1ページ/5ページ
自分に向かって振り下ろされる銀色のきらめきに、私は死を覚悟した。
けど。
「……?」
覚悟していた痛みがなく、そろりと目を開けると……広い広い、大きな背中があった。
(誰……?)
「よせ、知盛! 丸腰の女だろうが!?」
「……なんだ、重盛兄上か……ふん……屋敷の裏でこそこそと…そんな女を斬ろうとして、何が悪いんだ…?」
「見境がないんだよ、お前は! 敵かどうかぐらいわかるだろうが!」
互いに顔見知りのようで、知盛と呼ばれた方も重盛と呼ばれた方も鎧と剣をたずさえている。
…まるで、戦に向かう将のようだ。
綺麗だけれど自分を殺そうとした冷たい瞳の「知盛」という男に怯えていると、もう一人の男がふとこちらを振り返った。
「…お前、なんだってこんなとこに…それにその恰好は」
「…?」
痛ましいものでも見るようなその視線に私は自分の姿を見直す。
なんてことはない。
ワンピースを着ているだけだ。
「その姿は…襲ってくれ、と言っているようなものだな」
呆れたように言葉を吐き出す「知盛」に私が声を上げるよりも先に、「重盛」が声を上げた。
「バカ! こいつにはいたって普通の格好だよ…」
そしてもう一度悲しげな顔で私を見ると、その人は呟いた。
「現代から、来たんだな」
その言葉の意味を私が知るのはもう少し後の話。
夢なら覚めて。
.