遙か夢弐
□ともに
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「名無しさん。
浮かない顔をしてどうした?」
「マコトさん……」
「チナミくんは?」
「稽古をしてくると言って出て行ったよ」
「そう」
「……どうした? どこか調子でも……」
「朱雀を使うと使い手の体を蝕むと聞いたわ」
「!」
「ほんとなの?」
「……」
違うって言ってほしい。
大丈夫だ、安心しろって言ってほしい。
「……本当、なのね」
返事がないことにじわりと涙がにじんだ。
「名無しさん」
「ずっと一緒にいてくれると言ったわ……! 私とずっとともにあると言ってくれたわ! チナミくんだって私のことを姉上と呼んでくれてる! それなのに……っ」
「……志のためなんだ」
「……志のために、私を置いていくの?」
ぽろりと涙が頬を滑り落ちた。
マコトさんの無骨な指がそれをそっとぬぐってくれ、すぐにふわりと抱きしめてくれる。いつもならとても安心したそれが……いまはひどく心騒がせる。
「……すまない」
耳元でささやかれた声に余計に涙がこみあげた。
広い背中に手をまわしてぎゅっと抱きついた。
「謝らないで……私こそ、ごめんなさい」
わかってる。
彼の志がどれほどの人をひき付けているのか。
「……好きよ。好きなの」
「私もお前が好きだ」
「お願い……死なないで……っ」
私を抱きしめてくれる腕の力がいっそう強くなった。
「死ぬものか。ずっとお前と、ともにあるよ」
2011/4/11