乙女ゲーム夢2
□地獄の業火に焼かれようとも
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私を忘れて幸せになれ。
どんな思いでその言葉を口にしたの?
結果として、クリスティーヌは彼のことを全面的に受け入れた。
その時初めて私はどこか救われたような気分になったのに、彼は彼女を優しく突き放した。
幸せになってほしい。
私を忘れて幸せになれ。
エリック……エリック……っ。
どうしてあなたは自分が幸せになるということを考えないの?
優しく突き放したエリックと、泣きながらもそれを受け入れたクリスティーヌ。
彼女を振り切ったエリックに私は声をかけた。
「エリック」
「名無しさんか……」
顔色が悪い。
さっき受けた傷が痛むのだろうか。
それとも彼女を突き放した精神的なショックから?
とりとめのないことが頭をよぎる。
私は深呼吸をした。
「私は、ついていくわ」
「……」
「あなたはクリスティーヌに幸せになってほしいと言った。じゃあ私は、あなたについていく。地獄の業火に焼かれようが、私はあなたの傍を離れない」
じっと彼の眼を見つめる。
手を伸ばして彼の腕を掴んだのは、それでもおいて行かれたらどうしようと不安だったから。
静かな瞳で私を見つめたエリックは、ふと表情をやわらげた。
え……。
すっと彼の手がのばされて、私の頬を撫でる。
指先がくすぐるように唇に降りてきて、輪郭をなぞった。
「……元から、お前を置いていく気はない。誰がいなくなったとしても、お前だけは私の隣にいてくれると、ずっと前に誓っただろう?」
「エリック……」
彼にとっても当たり前。
それは私が隣にいることだと言われたようで、視界が涙でにじんだ。
つ、と頬を伝った涙をエリックは顔を寄せて自らの唇で拭ってくれた。
「こんな私を、お前はどう思うだろう? クリスティーヌに対する激しいまでの激情とはまた別に、私の中には穏やかな愛情があったようだ」
「……何?」
何を、言っているのだろう?
「私はお前には優しくないようだ。お前の幸せを願ってやるほど、私は出来ていない。お前の居場所は、私の隣だ」
「……っ」
まるで愛の告白。
息をつめた私の頬を、温かなてのひらが包み込んだ。
そっと、触れるように唇に口づけられる。
「クリスティーヌに対するのとはまた別に、私は……お前を愛している」
「……ぇ」
「私と共に、地獄の旅路に出てくれるだろうか?」
不安げな瞳。
あふれ出る涙を抑える術を知らず、私は彼の胸に飛び込んだ。
「当たり前じゃない……っ!」
「名無しさん……」
優しく優しく抱きしめられた。
「私はずっとずっと昔からあなたを愛してるんだから……っ!」
2012/06/16