乙女ゲーム夢2
□自信なんて
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「……」
電話…取らないとな、と思うのにどこか怖くて取れない。
目に焼き付いた数日前の光景。
ただたんに他の女性を助手席に乗せていただけ。そうは思ってもいつも自分がいる位置に他の女性がいたというだけで胸の奥がちりちりもやもやする。
こんなの、すごく面倒な女だよね……慧の彼女は私なんだってもっと胸を張って堂々としてたい。
けど……あの人が大人しげな普通の女性だったから。
きっと慧の好みだなと思ったから……余計に怖くてどうにも動けなかった。
「…なぁ、アル」
「なんだ?」
「なんか加賀見さん、変じゃねぇ? すっごい苛々してるっていうかさぁ……」
「……名無しさんと連絡が取れてないらしい」
「へ? またどーして?」
「原因不明だと。しかも仕事がなかなか区切りつかなくて会いにもいけない状況らしい」
ふぅん、と相槌を打って疾斗は機嫌の悪さMaxのチームリーダーを見つめた。
そして脳裏によみがえる不自然な表情。
「あー、そういやあいつも変な顔してたな」
「あいつ?」
「名無しさんとさ、こないだ会ったんだよ。偶然。んで加賀見さんのFCに葛西が乗ってるの見てなんだだろうなって言って……」
言い終わるかどうかというところで疾斗の胸倉が乱暴につかみあげられた。
驚く間もなく目の前に凶悪な顔をした慧が迫る。
「う……っ」
恐怖を覚えた疾斗は、犬であれば尻尾を丸めてきゅうんと言っていただろう表情をした。
「どうしてそれを先に言わない……っ!?」
噛みつくように間近で叫ばれて、何を怒られているのか自分でもよくわからないまま胸元を離される。
「カズ! 俺は帰るぞ、あとは頼んだからな」
「……どうぞ」
カズは胃がきりきりと痛むのを感じながらこくりと頷いた。
ここで引き留めて極寒の中仕事をし続けるのだけは避けたい。
足音荒く部屋を出ていった慧の後姿を見届け、疾斗はアルに泣きついた。
「いま、マジで殺されるかと思った……っ」
「お前が掴んだ情報そのままにしてるからだ」
呆れた口調で返されて疾斗はむくれた。
聞かれてもいないのに言うわけないじゃんか。
というかそもそも「あれ機嫌悪いな」と気づいたのはいまさっきだ。
「……人間味あふれてるね、今の加賀見さん」
遠い目をしてぽつりとつぶやいたカズの言葉に、一同深くうなづいた。
その方がいいというか。
はた迷惑というか。
ピットの中に重苦しいため息が響いたのだった。
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