乙女ゲーム夢2
□君だから
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「ひょ、わ……っ」
「どうしたんだい、レディ?」
ちらりと上目遣いに見上げられて、軽く手を握られただけの私はその手を奪い取ることも出来ずに顔を真っ赤にしたままおののいていた。
ちゅ、っと軽くリップ音。
指先に口づけられて心臓が爆発しそうなまでに大きく鼓動する。
「あ、こら神宮寺! 名無しさんのことからかうなよなっ」
「お、音くん音くん音くん……っ!」
涙目になりながら音也の名前を呼ぶと、目の前の彼は不機嫌そうに顔をしかめた。
軽く握られてただけの手にぎゅっと力がこめられる。
「イッキー、なんで君が邪魔しに来るんだ?」
幾分低くなった声にも怯まずに音也はむっと口をとがらせた。
「邪魔するよっ! 名無しさんは俺の大切な子なんだから!」
奪い返すかのように私の頭をぎゅっと胸の中に抱え込んで、音也は神宮寺さんに相対した。
「……大切、ね」
ぼそりと呟いて神宮寺さんがそっと私の手を放した。
音也の腕の中にいながら、艶っぽい瞳で見つめられてどきんと心臓がはねた。
「君も、イッキーの方がいいのかい?」
「え……」
真剣な瞳に戸惑っていると、神宮寺さんはくるりと踵を返した。
「悪いけど、オレも本気なんだ。……奪いに行くから、覚悟してて」
「……っ」
かーーーーっ、と顔に熱が上ってきた。
ほてる頬の熱を持て余していると、音也が心配そうに私の顔を覗き込んできた。
「ごめん、オレ思わず助ける形になっちゃったけどよかった?」
「う、うん。ありがと音くん……免疫ないから助かった」
はふ、と息をつく。
「……んー、名無しさん?」
「え?」
「オレさ、お兄ちゃんだからお前のことがすっごく心配だけど、神宮寺があんなに必死になってるの初めて見るし」
「音くん……」
「信じても、いいんじゃないかな?」
兄の顔をして笑う音也に私は小さくこくんと頷いた。
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