乙女ゲーム夢2
□ワガママ
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なんで誕生日を一緒に過ごせないの
ずっと前からの約束を反故にされて、思わず感情のままに責めてしまった。
仕事なんだから仕方がないだろう、って言って怒ってくれてもいいくらいだったのに、レンは悲しそうな顔をして「ごめんね、レディ」と謝ってくれた。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
謝ってほしかったわけじゃない。
それなのに意地っ張りな私は、何も言えずに彼に背中を向けてしまった。
「はーぁ……」
誕生日の夜。
寂しく一人でケーキを買って、私は家への道のりを歩いていた。
「寒いなぁ……」
レンがここにいたら、きっと手をつないであっためてくれたのに。
そんな風に考えると切なさがいや増した。
仕方ないと考える頭と、どうしてと思う心と、その二つの妥協点を私はいまだに見つけられなくて。
仕事なのに感情のままに責めてしまったし……
これを機会にレンに別れを切り出されたらどうしようとびくびくしてる。
何度かかかってきた電話を取れないのはそのせいもあるから。
住んでるマンションが見えて、ついてるわけもない自分の部屋の電気を確認してしまう。
……今から暗くて寒い部屋に戻るのかと思うと、それにもまた落ち込んで。
彼氏と彼女だからってお互いを常に優先できるわけじゃないってわかってるけど。
「……こんばんは、お嬢さん」
「っ!」
突然後ろから声をかけられて、そのまま広い胸に抱きこまれてしまう。
確認しなくてもとてもよく知っている声で。
「今夜の予定がないなら、オレと一緒に過ごしませんか?」
「れ、ん……」
どうして、至極まっとうな問いは声にならなかった。
でも彼はその問いを正確に感じ取ったようで。
「死ぬ気で終わらせてきたさ。オレだってレディと会いたかったからね」
隙のないレンが、少し髪を乱している。
本当に、必死で仕事を終わらしてきてくれたんだろう。
「……わがまま、言ったのに……ごめんなさい……」
ぽろりと涙が零れ落ちた。
「いいさ。こんな特別な日に仕事を入れざるをえなかったオレの不甲斐なさだよ。名無しさんが気に病むことはない」
どこまでも私を甘やかす言葉に余計に涙が溢れた。
「……っ」
「……泣かないで。オレの大好きな、レディの笑顔を見せてくないかな?」
がさりと音がして、目の前に可愛らしいブーケが差し出された。
「ハッピーバースデイ。オレのお姫様。これからもどうか、俺の傍に」
2011/12/31