乙女ゲーム夢2
□優しい居場所
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ある日買い出しに一人で街に出ると、遠くの方にだんだら羽織が見えた。
「あ…!」
左之さんの隊だ!
思わず走り出そうとした足が地面に縫い付けられたように固まった。だって左之さんは、綺麗な女の人と楽しそうに喋っていたから。
「……」
誰、だろ?
知り合いかな…? 親密そうな雰囲気になんだか気分が落ち込んでくる。
「ちょっとあなた」
「え……」
気づけば数人の女性に囲まれていた。
何?
「あれを見て何も思わないわけ?」
「えっと…?」
女性の一人があごをしゃくった先には左之さんと綺麗な女の人の姿。私は何を言われているのかわからなくて困惑して目の前にいる女性たちを見つめた。
「鈍いわね! 新選組の原田さんは、あそこにいる楓さんと相思相愛だったのよ!」
「!?」
あれが永倉さんが言ってた楓さん……?
でも相思相愛? そんなことはまさに寝耳に水で、私は大きく目を見開いた。
「なのに近藤さんの養女だというあなたから言い寄られたら、断れるわけないじゃないの!」
「あ……」
私はさっと青ざめた。
なんてことだろう…言われて初めて気づくだなんて。自分が近藤さんの養女だということを…忘れてはいけないのに忘れていた。ううん、違う。気にもとめていなかったんだ。でも左之さんからしたら局長の養女……私の告白を断れるわけがなかった?
今までの幸せだった日々が色あせ虚しく思えた。
この世界に来たのは彼に出会うためだったんだと……そう思えてきたところだったのに。
「あ? 名無しさんじゃねぇか」
「っ」
左之さんがふとこちらを振り向いて、いつもみたいに笑顔で手を振ってくれた。話していた女の人に断ってこっちへと来てくれる。
……でもどうしてそんな笑顔を向けてくれるのかがわからない。私にはそんな資格はないのに。
「おい、名無しさん? どうした?」
「っ!」
「…名無しさん?」
心配そうに顔を覗き込まれる。優しいこの人に無理をさせていたんだと…無理に私に付き合わせていたんだと思うと申し訳なくて仕方がなくなった。
「ご、めんなさ……っ」
私は左之さんに背を向けるとだっと駆け出した。
「名無しさん!?」
もう屯所には帰れない。
私は、やっぱり邪魔な存在だったんだ。
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