乙女ゲーム夢2
□鏡ごともまた真実
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「どうして…っ!
あなたは俺を見てくれないんだ!?
誰かほかに好きなやつがいるなら奪ってみせる!
俺を向いていないなら惚れさせてみせる!
だがあなたは、俺を見ているのに俺を見てはくれない!
いったいどうしろって言うんだ!?」
斯波さんの激高に私は身を震わせた。
すべてが手に入ると信じて疑わない彼。
「私」のことも再会さえすれば手に入ると思っていたのだ。そのためだけに死にそうな思いをしてここまでのし上がってきたのだ。
なのに。
……私は彼の「少女」を奪ってしまった。
彼への贖罪は彼の想いに応えないことだろうと思う。でも私は彼を好ましく思ってしまっていた。恋慕の情といってもいいほどに。
だからこそ彼をはねのけることもできず、もう二度と会わないという選択もしきれずここまで来てしまった。
「……斯波さん」
「なんだ!?」
「ごめんなさい」
「……何を謝ることが?」
「私はあなたの愛する人を奪ってしまったわ。ずっとずっと再会するのを夢見て探し続けていた人を」
「……いったいどういう意味だ? あなたは俺の目の前に……」
「違うの。……違うのよ」
ほろりと涙が頬を伝う。
それに弾かれたように肩を震わせた彼に、私は頭を下げた。
「…ごめんなさい。私はあなたの気持ちに応えられない。二度と…この家に来ないで」
「な……っ」
私の拒絶に傷ついた顔をする斯波さんの顔から眼をそらして、私は藤田を呼んだ。
「藤田! お客様がお帰りだわ」
「かしこまりました」
「待ってくれ! 俺はまだ話が終わってない! こんなわけのわからないままあなたを諦められるわけがないだろう!?」
「私は、二度とあなたには会いません」
「名無しさんさん!」
呼ばれた名前に体が震える。
あの声で、彼に名前を呼ばれたことが……最後だとしても、すごくすごく幸せだった。
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