乙女ゲーム夢2

□ひとめぼれ
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「君さ、最近恋してるでしょ」

「……私のことなんていいので仕事してください!」










珍しく部屋にいた緒方先生にコーヒーを淹れながら、私はめざといその人に内心舌を巻いていた。




最近配属替えになったためにあろうことか官能小説の編集に回された私。



しかも癖のある緒方芳彦先生の担当だなんて……前の担当の人にぽんと肩を叩かれた意味がよくわかった。




「そのコーヒー飲んだら書く」




「もう! わがままです!」







「そんなことないよ? そこまで筆を早めてほしいなら君が……」






「脱ぎませんし着ません」




「……つれないなぁ」




ぴしゃりと切り捨てると緒方先生はため息をついてソファに身を沈めた。





「最近俺の創作意欲を掻き立ててくれる女の人がいないんだよねぇ」




「まずは恋人を見つけたらどうですか?」



コーヒーを渡しながらそういうと、先生は目を丸くした。



「俺に恋人がいるの知ってるでしょ?」



「あれは夜の間だけの恋人でしょう? 好きな人見つけてください」




「へぇ……?」



「なんですか?」



にやついた笑みを浮かべた先生に危険を感じて私は一歩退いた。



「いや、前から思ってたけど君面白いよな。どう? 俺と……」







「なりませんしませんさせません」




「大切にするし気持ちよくさせてあげるよ?」



「間に合ってます」



「でもその恋の相手とは付き合ってないんでしょ?」



「……なんでわかるんですか?」



「好きな男に身も心も愛されてる女からは匂い立つような色香が漂うからね」



「セクハラです!」



「官能小説の編集になったんだ、これくらい諦めなさい」



ずずずとドリップしたコーヒーを美味しそうに飲む緒方先生に私はがっくりと肩を落とした。







「……そういえば君、花が好きだねぇ」




「綺麗でしょう?」




あまりに生活感のない部屋に少しの彩りを与えるために、私は時折切り花を持参する。もちろん結城さんのところで購入したものを。



「うん」



「迷惑、ですか?」



「いや? 綺麗なものを見ると汚したくなる質なんだけど、花は普通に綺麗だと思えるよ」



「……それはようございました」





「それにしてもそうか、君の恋の相手は花屋か」



「!!?」



心構えなくストライクを出されて私は飲んでいたコーヒーにむせてしまった。




(片思いの恋と見透かされて)
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