乙女ゲーム夢2
□相反する心・分岐(斎藤夢)
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真夜中。
そっと屯所を抜け出した。
今までまったく屯所から出たことがなかったからどこに向かえばどこに行きつくのかまったくわからない。
それでも。
これ以上新選組にいるのは苦痛だった。
「えっと……あれ?」
屯所を抜け出したと思っていたのに、街中ではなく家が見えて私は歩みを止めた。
……待て。まさか、ここは……こんなことも知らずに私はどれほどの間ここで生活していたのか。
踵を返そうとした私の後ろに、白刃のきらめきが見えた。
「っ!」
とっさに身をかわすけれど、腕を斬りつけられて痛みに顔がゆがむ。
「血……血だ……もっと、ち、ちぃぃぃぃいいい!」
「っ」
ひゅ、と喉がなる。
ダメだ……殺される……!
「どいていろ!」
「!」
耳に聞こえた声に助かるのかもしれないと思った時、足から力がぬけて座りこんでしまった。それと同時に、土の上に赤い飛沫が飛ぶ。
「……ぁ」
どさりと倒れる、人の形をした羅刹。
そして、月明かりの下怒りを秘めた瞳で私を見る……斎藤一。
「あんたは何をしている」
「あ、の……」
「ここに血に飢えたやつらがいることはあんただって知っていたはずだ。何故ここに立ち入った」
断罪の瞳に、自分の腕を押さえる手に力が入った。
「あんたのせいで、この者を斬らねばならなかった……」
揺らぐことのない断罪。
その中、悲哀を込めて吐かれたその言葉に私は目を見開く。
ああ……優しい人だということを思い出させないでほしい。
忘れたことなんてなかったけれども。
「……あんたの手当てもしなければならんし、この者の始末もしなければならん。屯所に戻るぞ」
「……斎藤一……」
「なんだ」
「……ころ、して」
「!」
「お願い……」
「……あんたは生きるのが苦痛なのか」
「ええ」
「それゆえ、屯所を抜け出そうとしたのか」
「……ええ」
「では殺さぬ。生きろ」
「ど、して……」
呆然とした。
だって彼なら新選組に不利益となった時点で私を殺してもよさそうなものなのに。
「あんたのせいで散った命への、せめてもの償いだ」
「!」
くしゃりと顔がゆがむ。
そう……私が屯所を抜け出そうとしなければ、ちゃんと出入り口がわかっていれば、この人は死なずに済んだ……。
「ごめん、なさい……」
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