乙女ゲーム夢2

□相反する心・分岐(沖田夢)
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「名無しさん」

 優しい笑顔と優しい声で私を呼ぶ。











 それが塗りつぶされるなんて思いもよらなかった。













「ぐ……ぐぁああああああ!」






「沖田さん!」




 胸元をかきむしるようにして沖田さんが苦しげに叫ぶ。




 私の耳に嘲るような笑いがすべりこんできた。





「はは! 新選組の沖田総司! いい気味だね……そのまま苦しみ続ければいいのに」




 どうして。



 私と一緒にいることを選んでくれた。雪村千鶴は沖田さんを選らばなかった。



 それなのに、どうして……!
 泣いても事実は消えない。
 彼が羅刹になった日。


















 泣くつもりなんてなくて。


 でも床に伏す沖田さんを見ているとどうしても胸がせつなかった。



「……」


 私の、せい?


 私がこの世界に来てしまったから?


 ぐるぐるいろんな考えが私の頭の中で堂々巡りを繰り返す。



「……」



 おきた、さん。
 唇でだけ名前を呟く。声に出すと起こしてしまうもの。心配させてしまうもの。




「……名無しさん? 泣いてるの?」



「!」

 ふと目じりに暖かくて優しい手が触れる。




「君って、そんなに泣き虫だったんだ?」

 やつれた顔でふんわりと笑われて、私は思わず彼の懐に飛び込んだ。しっかりと受け止めてくれた腕に、さらに涙があふれる。










 私は、強くない。強くあれない。







 思い出があればたとえ彼がいなくなっても大丈夫、だなんて言えない。だから……お願い。








 死なないで。


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