乙女ゲーム夢2

□相反する心・分岐(沖田夢)
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 雪村千鶴に頼まれて仕方なく沖田総司のところにお茶を運ぶ。







 ……あの人、苦手なのに。




 部屋に入ると彼は寝ていた。



 逡巡してから茶器だけ置こうと思い部屋に足を踏み入れる。



 枕元にお盆を置いた、その瞬間。




「っ」



「何してるの?」




 雪村千鶴に対して悪ふざけにするときにはりつけている笑みなどなく、無表情に沖田総司が私を自分の布団に押さえつけていた。



 驚くと同時に腹立たしく思う。







「……お茶」



「持ってきてくれたんだ。ありがとう」




 言葉だけのお礼にイラつきながら身を起こそうとするのだけれど、腕を押さえる力は強く動けない。




「離してください」




「どうして? このままでもいいじゃない」




「嫌です」



「……じゃあ僕の質問に答えてよ。僕に対してそのイライラする眼差しを向けるのは僕がこうなるってわかってたから?」








 ……沖田総司が労咳だとわかったのはつい最近のことだ。





 それが分かるまでも彼は具合悪そうにしていたのだが。



 そんなこと言えるわけがない。


 言いたくない。



 だって……だって……彼はあの薬を使ってでもどうにもならないのだ。


 そんなこと……。









「……なんで泣くの?」








「っ」





 冷たいものがまなじりを伝って落ちていく。



 私にだってわからない。


 私だって教えてほしい。









 なぜ彼らを見るとこんなにも胸が痛むのか。切なくなるのか。泣きたくなるのか。









「……泣かないでくれる? 面倒くさいから」






「っ」





 言葉とは裏腹に私の頬を伝う涙を唇で吸い取ってくれる。そのしぐさはとても優しい。頬に触れていた唇が、ふと私の唇を覆う。触れるだけのキス。






「……嫌がらないの?」



「……」



「もっとすごいことするよ?」




「……」





「何か言いなよ」





「……沖田総司、私は」








「……その呼ばれ方、嫌いじゃなくなったんだ。変なの。最初は君にイライラしっぱなしだったのに……どうして僕は……」








 なんでそんなすがるような目をするの……。









「ねえ……」











 耳元で囁かれた甘い告白に私はくずれ落ちた。

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