乙女ゲーム夢2
□相反する心・分岐(藤堂夢)
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ふと目にとまった野草に私は小さな青年を思い出した。
……元気に咲くその姿がどこか彼に似ている。真昼の下を生きることが出来ない彼のために、私はその花をそっとたおった。
「何これ?」
目覚めた彼は生けられた花に目を丸くした。
「すっげぇ! 綺麗じゃん。なんて花?」
「知りません」
「へぇ……そっか。ま、綺麗だからいいか」
にっこりと笑って、彼は少しだけ表情にかげを落とした。
「そっか……花はいまでも綺麗に思えるんだな」
「え……」
「……」
彼は。
平助くんは切なげな笑みを浮かべて私を見た。
「俺さ。今までと見るモノの見え方が違うんだ。……でも、この花は今までと同じで綺麗だと思える」
「!」
そう……羅刹になるということは、そういうことだった。
彼が最も羅刹ということを重く受け止めているんじゃないだろうか。
「平助、くん……」
「へへ。やっぱお前にそうやって呼ばれるの、くすぐったいな」
「……」
「……名無しさん」
「……」
「俺、お前のこともちゃんと綺麗だって思える」
「……」
ほんのりと頬が熱を持つ。
まさか、そんな風にまぶしい笑顔でそんなことを言われるとは思わなかった。
私のことを綺麗だと言ってくれる彼の方が、余程綺麗だと思った。
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