乙女ゲーム夢2

□相反する心・分岐(藤堂夢)
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「お、おにぎりじゃん! 食っていいの?」

「どうぞ」

「さんきゅー!」











 にっこり笑っておにぎりをたいらげていくその姿は今までと変わらない。でも……これまでとは決定的に違う。


 彼は羅刹となった。


 それを知って涙を流すほどには、私は彼に対して愛着がわいているんだ。



 ……いつしか死んでしまう。
 どうあっても……。






「藤堂平助」




「んぐんぐ……にゃに?」




「……どこか……空気のきれいな場所に行ったらどうですか?」



「んえ?」



「新撰組とは離れて……羅刹になることもなく……」



 おにぎりをむさぼっていた藤堂平助の顔がすっと真剣味を帯びて私を見つめた。




「っ」



「行かねぇよ、俺」





「でも……!」






「俺さ……羅刹になったのって俺が弱かったからだと思うんだ」







「そんなことない!」

 思わず語気荒く叫んでしまって、私は自分の口を抑えた。


 藤堂平助は私の言葉にきょとんとして、それから彼特有のまぶしい笑顔で微笑んだ。



「そう言ってくれると、すげぇ嬉しい。でもさ、俺死にたくないって思ったんだ。それって俺自身の命が大切だったからだし、でも同時に……新撰組のみんなと離れたくないって思ったからなんだ」



「……藤堂平助」


「……俺は人間だからさ、羅刹の衝動にはずっと抗っていこうと思う。血なんて飲まなくてもいいように……」



「……」





「前に言ったよな? つらかったら誰かに寄りかかればいいし、悲しかったら誰かに聞いてもらえばいい、って。俺、それが新選組のみんななんだ。左之さんとか、しんぱっつぁんとか……みんな、大切なんだ。だから俺一人逃げるなんて出来ないよ」





「……馬鹿」



「ひっでぇ!」



 なんでこんなにやさしいんだろう……。
 なんでこんなに強いんだろう……。
 彼がまぶしい。









「……なぁ?」

「なん、ですか……っ」




「俺さ、この頃よくお前の顔見るなーと思うんだけど気のせい?」



「っ! 気の、せいです」



 必要もないおにぎりを作って夜に起きているだなんて……それがなんのためかなんて言いたくない。言えなかった。



「んじゃあさ、今が真夜中だって知ってるか?」



「知ってます」

「なんで起きてんの?」



「起きてちゃいけないんですか、たまたま目が冴えてるんです」




「たまたま? 一週間も?」



「……」






「なぁ……俺に会うために起きてくれてるんだ、ってうぬぼれちゃダメなのか?」




「っ!」



 うかがうように聞いていた藤堂平助の顔が、徐々に満面の笑みを浮かべる。


 ……私の顔が熱を持ちはじめたからなのかもしれない。



「知りません! 私は寝ますっ」



「あ、待てよ!」




 引き止める藤堂平助の声を無視して部屋から出ようとしたけれど……後ろから抱き寄せられてしまった。





「っ!? な、藤堂平助!? 離して……っ」




「離したら行っちまうだろ?」

「っ」



「……俺、けっこうお前のことほっとけないなーって思ってるんだけど……俺のこと好きじゃない?」



「……」



「名無しさん、
 なぁ俺、お前のこと好きだ……」




「っ」




 なんで。
 どうして。












 嬉しいと思うんだろう。


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