乙女ゲーム夢2
□相反する心・分岐(原田夢)
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「げほ……っ、ごほ……っ」
「おう、左之! いるか?」
「……けほっ」
「お……名無し?」
障子を開けて部屋を覗き込んだのは永倉さんだった。
「は、らださんは……台所です……っ。けほっ、生姜湯、作りに……っ」
続けて咳が出て苦しい。
なんで私だけ……風邪引いたんだろう。
「だ、大丈夫か?」
「だ、じょ、ぶ……っ」
焦ったように永倉さんが私の背中をさすってくれる。ぎこちないその動きに私は思わず笑ってしまって、それでさらに咳が出た。
「なんだ、お前……なんか変わったか?」
「……っ?」
「いや、なんつーか……やわらかくなったてーか……かわいくなったてーか……」
微かに顔を赤らめてそういう永倉さんい私は首をかしげた。
「でっ!」
「な、がくらさ……!?」
とつぜん永倉さんが床に伏した。その背後を見ると……。
「そいつに手、出すんじゃねぇぞ? 新八!」
「原田さん……っ」
「待たせたな。ほら、飲めよ」
あたたかい生姜湯を渡されて、私は有難くそれを飲んだ。
……美味しい。のどが大分癒された。
「いきなり何すんだ、左之!」
「お前こそなんだよ。俺の部屋に何の用だ」
ぎゃんぎゃんと始まったやりとりに、私は目を細めて笑った。
この日常が、愛おしい。
ずっとこのままだったらいいのに。
……でもそれは、叶わない夢なんだけれど。
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