乙女ゲーム夢2

□相反する心・分岐(原田夢)
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 雨の降る中、ぼうっと突っ立って空を見上げる。


 眼の端から雨が流れ込んでくる感触を感じながら、それでも見上げつづける。



 どうしよう。


 どうすればいい?



絆されれば絆されるほど辛くなるとわかってるのにもうどうしようもないぐらい絆されている気がする。


 なんでかわからないけど無性に泣きたくなった。









「……っ」

 いっそここを出た方がいいのだろう。
 彼らのために何かしたいと思うけど関わりたくないというのも本音で……。

 私はここにいる資格も覚悟もないのにどうしてこの場所にいることを甘んじているんだろう?


 雨にまじって涙が頬を伝う。
 泣いてしまえば楽になるだろうか。








 バシャバシャと雨に濡れた地面を走る音が聞こえた。



「!」



「お前、何やってんだ!?」



 私の肩を掴んで顔を覗き込む人を認識した。



「は……」



 無意識に原田さんと呼びそうになって口を閉ざす。


 そう呼んでしまったら最後だ。


 全てを晒してすべてですがりついて全てを求めてしまう。




 そんなことは出来ない。





「馬鹿、ずぶ濡れじゃねぇか……っ、ったく、こっち来い!」





 腕を引っ張る原田左之助の手を私は振り払った。



 雨の音がうるさい。




「お前……っ」




「放っておいてください。大丈夫だから」




「大丈夫って……お前なぁ……」




 ぐ、と眉間にしわを寄せて原田左之助はイラついたように私の腕を再び掴もうとした。それを避けては手をのばされ、何度か攻防を繰り返すと原田左之助は凶悪な顔をして私の顔を下から覗き込んだ。





「……いい加減にしろ! 戻るぞ」




「嫌です」



「……らちがあかねぇな」

 じゃあ放っておいて。
 もう私に関わらないで。

「っ!」





 とつぜん抵抗する隙もなく原田左之助に抱えあげられた!




「や……っ、降ろして!」




 手足を動かしても原田左之助はびくともしない。
 がっしりとした腕の感触や固い胸の感触にざわりと胸の奥がうごめく。




「……少し黙ってろ」






 恥ずかしいのに。
 うっとうしいとさえ思うのに。
 なんで嬉しいと思ってしまうんだろう?



















「きゃあ!」

 風呂場に連れてこられて、頭からお湯をぶっかけられた。



 そこではじめて自分の体が凍えていたんだと気づく。



 だがこの仕打ちはいささか酷いのではないか、原田左之助のくせに、と思ってしまうのは私の勝手なのだろうか。





「……」


「風呂、入ってこい。ちゃんと温まれよ?」





 がしがしと私の頭を撫でる原田左之助の髪からは冷たい雫がぽとりぽとりと滴ってくる。



 ……彼はこのまま部屋に戻って服を着替えるのだろうか。そんなことをすれば確実に風邪を引くだろう。



 離れていこうとする腕を思わず掴んだ。



「! どうした?」




 ……さっきまで私にイラついていたはずなのに、どうしてそんな優しい顔をするんだろう?




「……あなたが入ってください。私はもうこれで十分ですから」









「……」




 私の発言ですっと原田左之助の目が厳しくなった。……無表情に。





「さっき言ったよな? ……いい加減にしろ、ってよ」




「……服着替えるだけで十分ですから」




「これ以上俺を怒らせるな。ひでぇことするぞ?」





 ぐ、っと眉間のしわが増える。



 普段は笑っている人だからこんな風に真剣な顔をされると怖くなる。それでも引けなかった。彼に風邪なんて引かせられない。




「大丈夫ですから。放っておいて……っ」









 ぐっと胸元をつかみあげられたと思ったら、同時に唇をおおわれた。



 ざらりとした舌が歯列をわって口内に入り込んでくる。




 驚いて離れようとしても力が強くて離れられなかった。




 めいっぱい目を見開いて彼を見つめる。






 彼は整った顔立ちで目を伏せたまま私の唇を蹂躙した。






「……はっ」



「……っ! な、にするんです、か……っ、原田さん!」



「! ……そんな顔も出来んじゃねぇか」




 笑った原田さんが再びなだめるように唇を重ねてくる。





「……やっ」




「……嫌か?」




「……」





 ずるいと思う。



 笑った次の瞬間には真剣な顔で真意を尋ねようとする。



 他の誰よりも彼の瞳には嘘がつけない。








「……ずるい」








「……言ってろ」

「……」







「お前って、けっこうかわいいよな」

「っ!」






「そうやって人の言葉に照れる所とかさ」

「!」





 からかわれているのかと思ってばっと顔を上げると、原田さんは至近距離で私のことを至極愛しそうに見つめていた。




 その瞳に心臓が不自然な鼓動を刻む。



 ……逃げ、られない……。









 再び落ちてくる唇を感じながら私は身をゆだねて目を閉じた。


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