乙女ゲーム夢2
□相反する心・分岐(土方夢)
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ざあざあと雨が降っている。
それを感じながら私はその雨に降られていた。
寒い。
冷たい。
濡れる。
わかっているのに、ここにこれ以上いればみじめだとわかっているのに、それでもこうするほかなくて、水を吸ってどんどん重くなる着物を見つめた。
どうすればいい?
私はどうすればいい?
みんなやさしい、でもだからこそ失うのが怖い。
失いたく、ない。
でもそれでも未来を変えてしまうことも嫌で、怖くて、出来なくて、どうしようもないと言い訳をする。
かじかんだ手を目の前に突きだして、その手の小ささを考える。
この手でつかめるものは多くない。
それなのになにを掴もうと言うのか。
バシャバシャと音が聞こえて、なにかと思うと突きだしていた手を勢いよく引っ張られた。
「!」
「っの、バカ野郎! この雨の中なにしてやがる!!」
雨音にまぎれて聞こえた怒声に顔を上げると、すごい形相の土方歳三と目があった。
彼は容赦なく私をひっぱって歩き出す。
「……」
痛い、と思う。
強く握られた手が痛いと。
でもそれ以上にその温かさが切なくて、うれしくて、どうしようもない自分に呆れてしまう。
もう限界なんだ。
「おら、あったまってこい!」
「……」
室内に入ると自分がどれほど凍えていたのかに気がついた。正直お風呂に入れるのは有難い。
でも、土方歳三も私のことを探すのに大分ずぶぬれになってしまっていたみたいで、自分よりも彼の方が先に入るべきなのではないかと思った。
「……あの」
「なんだ?」
「私、着替えるだけで十分ですから」
そう言って脱衣所から出ようとする。
素直に「先に入ってください」とは言えなかった。ましてや風邪をひくからなんて。
「いい加減にしろ!」
「っ」
声を張り上げて怒鳴られた。
それにびくりと肩を揺らすと彼はいままで見たどの時よりも怒りを露わにしていた。
怖くてすくみあがる。
「……いいから、入ってこい。話はそれからだ」
「……」
話……。
なんの話だろう。
でもそう言われても体は一向に動かない。
どうしていいのかわからない。
土方歳三は私がお風呂に入れば満足かもしれないけどそれでは私が納得できないし。
立ちつくす私にしびれをきらしたか、なにを思ったか、土方歳三は私の腕を引いてお風呂場の中に入った。
「ひ……」
「……黙ってろ」
「っ!?」
黙ってろ、と言ってなぜか私の着物の帯に手をかけた土方歳三に驚いて声が喉の奥でとどまった。
でも彼の手は止まらなくて、解きにくそうに私の帯を解いていく。
「あ、あのっ」
「なんだ」
「な、なんで……っ」
「てめえが黙って風呂に入らねえからだろうが。これ以上濡れた着物着てたら風邪引くだろ」
「それはそうですけど……」
「だったら黙ってろ」
「わ、たしは部屋に戻って服を着替えますから!」
腕を突っぱねても土方歳三はびくともしなくてすこしずつ自分の体が心もとなくなっていくことに焦りを感じはじめた。
「ひ、土方さん……っ!」
「っ!」
思わず呼んでしまった呼び方に自分でもはっとして彼を見上げると、驚いた顔をしてそれから……。
「!」
なんで……。
はずかしそうに笑った彼になにも言えなくなってしまう。
「これからはそうやって呼べ……名無しさん」
「っ」
そして重ねられた唇と、足もとに落とされた最後の一枚。
なんでこんな状態になったのかまったくもってわからない。
でも。
あなたに落ちていく……。
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