アリス夢
□ケスクセ?(ブラッド)
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「君は変わらないな」
変わらないのは貴方の方なのに。
ふともらされたその声に私は視線を上げた。
碧の目と視線が絡まり呼吸が一瞬不自然に止まる。
ゆるく笑みを浮かべる口元も、そっと細められる目元も、カップを持ち上げる指も、何もかもが前と変わらないのは彼の方ではないのか。
固まった口を無理やり動かして私はポットから手を離した。
指先が震える。
「……どこが、変わらないの」
「君は紅茶にミルクと砂糖を入れるからな、邪道だ……と指摘したいところなんだが」
それこそが君らしい、そう言ってナゼそんなに蕩けそうな笑みを向けるのか。
私のことなどどうせただの余所者だと、暇つぶしだと思っていたのだろうに。
彼にはもう既にアリスという余所者がいるのに。
私などいなくても。
ズキン。
「っ」
胸が大きく痛んだ。
痛い。
いたい。
イタイ。
「どうした、名無しさん?」
「何も、な……」
「……何もなくて泣くわけがないだろう、こっちを向け」
頬を温かいものが滑る。
くいっと顎をすくうように持ち上げられて、目が逢う。
それと同時にブラッドは小さく眼を見開き彼には珍しく驚いたように戸惑ったように視線を揺らした。
「はなして、ブラッド……」
もう、放して。
「……」
ぽろぽろと涙は止まることなく頬を滑り落ち続ける。
揺れていたブラッドの瞳は定まり強い光を宿す。
「放さない。二度と、放すものか。逃げようがなんだろうが追いかけていって、私の腕の中に取り戻してみせる」
ブラッドの声がぐっと低くなり、冷酷さに熱を孕んだ目で見つめられ顎を掴む指の強さが増した。
その指の強さに心が萎縮して唇は何の音も紡がずにわずかに開閉を繰り返した。
「ぶ、ら……っ!?」
それでも、と口を開いた途端にブラッドの秀麗な顔が大きくなり滲むように
見えなくなった。それとともに唇に柔く熱いものが押し付けられる。
「むぅ……っ?」
「ん……ふ」
口内に入り込んできたざらりとした肉厚なものと、くちゅり、と耳に届いた卑猥な音に、今自分はブラッドに口づけられているのだと鈍くなった頭で理解した。
「ん、んふぅ…っ、んんんんん、はぁ……っ」
口内を長い舌に蹂躙され息が苦しくなって酸素を欲した途端に解放され一気に息を吸い込むと視界の中に鮮明になったブラッドの舌から銀糸の糸が伸びているのが思いのほかいやらしく感じられて、かっと顔に熱が昇る。
先ほどとは違う理由で眼尻に涙が浮かんだ。
「ああ、その涙なら私は歓迎するよ、名無しさん。私のために流された涙なら、そそられる……」
「そ……っ!?」
これ以上ないというほどに赤くなっただろう顔にさらに熱が集中してきて、視線をそらそうとした途端に再び顎を掴まれ間近に見つめられた。
「君が愛しいんだよ、名無しさん」
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