アリス夢
□ケスクセ?9
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「君が好きだったのは時計屋ではなく帽子屋だったんだな」
私の部屋についたとたんに言われた言葉にびくりと肩が跳ね上がる。
すがるように見上げたグレイの目は苛立たしそうで。
「ぐ、れい」
「行くのか」
「グレイ?」
「……」
ぐ、と眉間によったしわは普段のグレイとは確実に違って不機嫌ものを全面に現わしていた。
どうして、ここまで不機嫌なんだろう?
「あの、グレイ?」
私をベッドにおろして、グレイは落ちつかなげに懐からたばこを取り出した。
私が嫌うのを知っていて、私の近くでは吸わないようにしていたのに。
それを気遣う余裕もないようだ。
「……ふぅ……俺は、君が帽子屋ファミリーにいたことなど聞いていなかった」
「言ってない、けど……だめだった?」
「……」
ぐ、と眉間に寄ったしわが戻らない。
いつもみたいに、笑ってくれないのかな?
笑っては、くれない?
穏やかにして笑ってくれるその顔が、好きなのに。
……好きなのに?
グレイが?
グレイはナイトメアに呼ばれてしまって、たばこを一本だけ吸うと何も言わずに私の部屋を後にした。
ほら、日常はこんなにも壊れやすい……。
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