アリス夢
□ケスクセ?7
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「グレイ?」
「ああ、どうかしたか?」
「……それはこっちのセリフよ。グレイってば忙しいんじゃないの?」
「いや、大丈夫だ」
どこが。
「グレイ、何かあったの?」
たまりかねて尋ねると、けれども彼は大きな体で首をことりと傾けた。
その仕種が何とも言えずかわいらしい。
思わずそれにごまかされそうになったがそれを押しとどめてもう一度重ねた。
「どうかしたの」
「どうか……とはどういう意味だ?何もないしどうもしないぞ。名無しさんのおかげでナイトメア様の仕事の処理のスピードは確実に上がったからいい事ならばあったかもしれないが?」
「確かに……」
グレイの心労は少しは減っただろう。その手伝いができたのならば喜ばしいことだ。けれども。
―――だってなんだか大きなヒナみたいなんだもの。
それとも子供を産んだばかりの母親のよう。
一時もそばから離そうとしない。
目が届くところにいないと安心しない。
ある種の束縛のようだ。
いまだ心配そうにするグレイにため息を一つ。
束縛されることをさして嫌だとも思っていない、ともすればうれしいとも思っている自分にも驚く。
「私はどこにもいかないわ。ここにいることができる限りここにいる。……ここにいたいと思っている」
このクローバーの塔に。
いたい、ここに。
いつまでいれるのかはわからないけれど。
私の言葉にグレイはちょっと目を瞠った。
けれどそれはすぐに無表情に変わる。
じっとどこか責めるような視線を向けられて私はどきりとした。
どこか躊躇っているような雰囲気で、そして耐え切れなくなったように言葉を吐き出す。
「だが戻れるのならば戻りたいのだろう、時計塔に」
「え」
その言葉に私はきょとんとした。
時計塔?
「……そういえば……最近はもう戻りたいだとかそんなこと思いもしてなかったわ」
気づけばこのクローバーの塔が居場所になっていた。私の居場所に。
それともそう思っていたのは私だけなのだろうか。
「……戻った方がいい?」
「時計屋のところに戻りたいのだろう」
「え、ユリウス?」
「好き、だったのだろう?」
「え」
なにそれ!?
「ち、ちがう!いや違わないけど!」
そういう意味で好きなわけではないのだ。
だがグレイは確実にそういう意味で言っている。
誤解も甚だしい。
そんなことを言えばあの友人は「失礼なやつだ」とむつりとするのだろうけれど。
「だが、寝言であいつの名を呼ぶぐらいには好きなんだろう」
「ね、寝言!?」
寝言には私も責任もてません!
「す、好きか嫌いかと聞かれたら好きだけど……恋愛対象としてはお互いに見てなかった、よ?」
そう。だって、私が好きだったのは……
好きだったのは?
「そう、なのか」
「そうだよ」
困って見上げたさきにあったのは恥ずかしそうなグレイの顔。
「……君が、名前を呼んだりするから……」
「え?」
「……誤解しただろう」
グレイはそういうと、ひどく優しい顔で。
心底ほっとした顔をして、私の頬を、その大きな手でふわりとなでた。
「よかった」
その、頬に触れた手から、いとしい、といわれているみたいで……なんだかとてつもなく恥ずかしくなったのだけど。
でもそれ以上に、嬉しい、と思ってしまった。
私の気持ちがどこにあるのかなんて、私でさえもわからないのに。
ほかにだれが見つけてくれると言うのだろう。
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