アリス夢

□お騒がせ
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タバコの煙が漂う店内をブラッドに腰を抱かれたまま進む。



場違いだ、と分かりながらもその手を振り切ることは出来なかった。



女性に声をかけられるブラッドと、その女性に酷評される自分自身に羞恥心を覚えて。














そして奥に進んで見つけたその見知った顔に思わずほっとしてしまったと言ったら、腰を抱いている男性はどんな顔をするのだろうか。


「や! 奇遇じゃないか、帽子屋さんも名無しさんも飲みに来たのか?」



「・・・・・・騎士、なぜお前がここに?」



「はは! 飲み屋に飲みに来て何が悪いんだい? さ、ここに座りなよ」



「いや他の席に…」



「えー? でも他の席は空いていないぜ? 大人しくここに座るしかないんじゃないか?」



「・・・・・・っち」


ブラッドが遠慮なく大きな舌打ちをするのを聴きながらにこにことうそぶくエースの隣に座って、私の隣にブラッドが座った。
二人をくっつけたらすぐさまドンパチがはじまるよな、とそんな感じでエースの隣に座ったものの、にこにこと腹の探り合いをしている二人がものすごく怖かった。




「久し振りね」



そんな時、近づいてきてふわりとブラッドの隣に座った美人な女性に知らずに眉間にしわが寄ってしまって。



「…」



「ああ…久し振りだな」



ちら、とブラッドは私の顔を見てから彼女に微笑みかけ、軽く唇を触れあわせた。



「!」





キスをしながらも私の反応を窺うように、こちらを向くブラッドに私の中で何かが切れた。




がっ!




「お?」



驚いた顔をするエースと、ぎょっと表情を変えたブラッドと、それらを視界に収めながら私はぶつかるようにその唇に口づけた。――――エースの唇に。





「んっ」



「何をしているんだ!?」



声を荒げたブラッドをざまあみろと思う。

けれど、最初されるがままだったエースがぐっと私の腰を抱き寄せてくすぐるように舌で唇を舐め上げ中に入り込んだ時点で一気にパニックに陥った。



「んん!?」



縦横無尽に熱い舌が私の口内を暴き立てる。



「あ、ん、ふ……っ」



息が苦しい。


息も吸わせないほどに唇を貪られ舌を吸い上げられる。


戯れにもほどがある。

私が言えた義理ではないけれど。


そうは思いながらも重ねた唇からどこか愛情めいたものが伝わってきて私はひどく戸惑った。





――――エース?




「ふ・・・・・・ぁ」




離れた唇に必死で息を吸い込んで呼吸を整えていたら、エースはぺろりと自分の唇を舐め上げた。




「舌、小さくてかわいいな。君の唇って甘いんだ・・・・・・へぇ、知らなかったな」


色気たっぷりに笑ったエースに口をパクパクさせていたら遠慮のない力で肩をつかまれて彼から引き離された。腰に回された手のひらの感触と、耳の近くで聞こえたカチリという音にさぁっと一気に青ざめる。




「な……っ」




「・・・・・・騎士、いい度胸だな。帽子屋ファミリーのボスであるこの私の恋人に手を出すとは」



声はいつものように気だるく、でもその目つきは冷たく鋭く熱い。


本気で怒っている様子のブラッドに背筋が凍って、でも最初から彼が悪いのだとぐっと歯を食いしばった。




「えー? 違うぜ、帽子屋さん。手を出されたのは俺の方だよ。だってキスは・・・・・・名無しさんからしてきたんだからさ」



くす、と笑ったエースがさっと体を避けさせるとさっきまでいた場所に二発風穴があいていて一瞬の内に起こった狙撃に心臓がちぢみあがった。




「…」



「それにさ、名無しさんって帽子屋さんの恋人なのか? 愛人じゃなかったっけ? だったら名無しさんだって無理に帽子屋さんに義理を立てる必要ないと思うぜ? 俺と遊んだって問題ないだろ?」





「ちょ……っ、煽らないで……っ!」




さすがに煽りすぎだ、と青ざめてエースを止めようとしたら視界が突然反転した。


重力に逆らった体がなぜなのかを考える間もなく、近くなったブラッドのこの上なく不機嫌な無表情に彼に横抱きにされたのだと悟った。




「・・・・・・騎士。腹が立って殺したいほどだが、お前の言葉は正論だ。お前よりも・・・・・・彼女に問いただすべきことがたくさんありそうだな」



すっとブラッドの冷たい目が私に向けられる。


その目に見つめられたぞくりとした感触に首に枷をつけられて様な不思議な感覚に陥った。


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